こんにちは!ペンデル税理士法人医業経営支援部の親泊です。
クリニックや医療法人の経営において、診療報酬改定や患者数の減少により、
一時的に業績が悪化することは珍しくありません。
資金繰りを守るため、理事長自身の役員報酬を減額して危機を乗り切るという判断は、
経営者として責任ある行動と言えます。
しかし、業績が回復したからといって、「今月から元の給与に戻そう」と
安易に増額することは、税務上非常に危険です。
なぜなら、役員報酬には「定期同額給与」という厳格な取り扱いルールがあるからです。
(コラムの内容は公開時の法律等に基づいて作成しています)
「定期同額給与」と3つの改定事由
役員報酬を法人の経費(損金)にするためには、
原則として「事業年度を通じて毎月同額」でなければなりません。
原則として、改定が認められるのは次の3つのケースです。
- 通常改定
事業年度開始から3ヶ月以内に行う改定(定時社員総会など)。
- 臨時改定
役員の職制上の地位の変更(平理事が理事長になる等)に伴う改定。
- 業績悪化改定事由
経営状況が著しく悪化したことによる減額改定。
「業績悪化」による減額は認められるが、戻すのは難しい
「経営状況の著しい悪化」とは、単に目標利益に達しなかった程度では認められません。
例えば、銀行とのリスケジュール協議が必要となる深刻な資金繰りの悪化や、
取引先への支払いが困難な状況など、客観的に見て減額せざるを得ない事情が必要です。
この要件を満たして減額した場合、
その減額後の報酬は損金として認めらる可能性が高いです。
問題は、「期中に、業績が回復した時」です。
年度の途中で「業績が良くなったから増額する」というのは、
上記の3つの事由のいずれにも該当しません。
もし期中に増額してしまうと、その増額分は損金に算入できず、
法人所得に加算されるため、結果として法人税が増えることになります。
増額改定の正しいタイミング
減額した役員報酬を元に戻す(増額する)には、
次の「新しい事業年度の開始から3ヶ月以内(通常改定)」を待たなければなりません。
例えば、
3月決算の医療法人であれば、3ヶ月より一月早い、5月の定時社員総会で決議し、
6月支給分から変更するのが一般的です。
実務でしばしば見られるのが、4月に遡って増額した差額を7月に支給するケースです。
(例)「4月~6月分も増額したかったから、その3ヶ月分の増額差額を
7月の給与に乗せて支払った」
この場合、7月に支払った差額分は「定期同額」から外れるため、損金になりません。
役員報酬は「職務執行期間の開始前」に決定している必要があるため、
後出しジャンケンでの遡及増額は税務上認められないのです。
まとめ
役員報酬の決定には、個人の所得税・住民税、社会保険料、
そして法人の利益・税額すべてに影響する高度な調整が必要です。
「少し利益が出そうだから」といって場当たり的に報酬を動かすと、税務調査で否認され、
追徴課税を受けるリスクがあります。
ペンデル税理士法人では、月次決算に基づいた正確な業績予測を行い、
最適な役員報酬の設定をご提案します。
来期の報酬改定にお悩みの方は、決算前の早い段階でご相談ください。
(ペンデルへのお問い合せ はこちらから)
(参考)
国税庁:No.5211 役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分)
国税庁:役員給与に関するQ&A(平成24年4月改訂版)