こんにちは!ペンデル税理士法人 医業経営支援部 親泊です。
今回は、クリニックの事業承継で重要な「職員の有給休暇」について、より詳しく説明していきます。
財務や経費、資産だけではなく、実は見えないコストの一つとしてこの有給休暇の把握が
結構大事なのです。
通常のデューデリジェンス(価値・リスク調査)でも触れられないこともありますが、
実際に医療法人のクリニックを引き継ぐ際には必ず確認するようにしましょう。
(コラムの内容は公開時の法律等に基づいて作成しています)

まず有給休暇って何?
有給休暇とは、「仕事休んでも給料が出る休み」のこと。
今はもう、どんな職場でも与えるのが義務です。すこし前までの先生たちは
「有給なんて使わ(え)ないよ」と言っていましたが、今は全然違います。
さらに、「パートさんにも有給ってあるの?」と驚かれることもありますが、
もちろんあります。
有給は全職員に付与されるべきものです。
普通、フルタイムのスタッフは雇用して6ヶ月経ったらまず有給がもらえて、
そこから1年ごとに増えていきます。
パートさんでもその勤務日数に応じて比例して有給が出ます。
そして、有給は2年間積み立てられて、最大で40日分も貯めることができるんです!
40日だと、ほぼ2か月分の営業日数ですよね。
これをどうやって扱うか、クリニック引き継ぎのときには絶対に確認しておかないと、
後で痛い目にあいます。
※有給休暇とは (厚生労働省)
※付与日数について (厚生労働省)
なんで有給休暇がそんなに問題なの?
有給は、働く人たちがリフレッシュして仕事を続けられるようにするための基本的な制度です。
つまり、これを引き継ぐ新しい理事長が「以前までの有給はもう無し!」なんて言ったら、大問題です。
逆に言えば、買い手側には全職員が持っている有給を負担する義務があるということ。
有給休暇が最大の40日分残っているスタッフがいて、もしまとめて休暇を取った場合、
約2か月分の給与を払う必要が出てきます。
これが例えば、10人のスタッフなら…相当な負担になります。
引き継ぎ時に「この有給、どうする?」と、ちゃんと対策を立てなければ、
後で想定外のコストにびっくりすることになりますよ。
有給をどうやって確認する?
「有給の残りは、財務諸表とかに載ってないよね?」と心配する人も多いと思いますが、
その通りです。
有給休暇の残日数は、クリニックの書類の中に隠れてます。
通常、有給管理簿で職員ごとの有給日数を把握しているので、それを確認しましょう。
もし、その管理簿がない場合は、理事長や労務担当者に
全職員の有給休暇の残日数をちゃんと聞いて、確認書を作成してもらうのがマストです。
これが後々のトラブルを防ぐ鍵です。
「有給が思った以上に残ってた!」ってなったら?
もし、有給がたくさん残ってたら、どう対処するかが大事。
対処方法はケースバイケースですが、過去に次のような事例がありました。
1)承継前に有給をある程度、消化してもらう
「今のうちに有給取ってね!」と促して、ある程度消化してもらう方法です。
ただ、みんなが一気に休むとクリニックが回らなくなりますので、計画的に進めましょう。
2)退職扱いにして退職金として清算
一度、全員に退職してもらい、その時点で有給を清算(退職金として支払う)する方法です。
その後、再度雇用契約を結ぶ形で、引き継ぎ後は日数ゼロからスタートできます。
3)営業権で減額交渉
有給の残日数が多ければ、その分のコストを見込んで
「営業権の価格を少し下げてもらえませんか?」と交渉する手もあります。
これは買い手としては賢い方法ですね。
いずれの場合も、前理事長や職員との合意が必要です。話し合いが肝心ですよ!
まとめ
事業承継を円滑に進めるためには、単にお金のことだけではなく、
職員の権利や福利厚生をしっかりと管理することが本当に重要です。
これまで一緒に働いてきた職員が、安心して承継後も働けることが、成功の鍵です。
もし、引継ぎ方法でお困りであれば専門家のサポートを受けるのも一つの手です。
ペンデル税理士法人 医業経営支援部では、クリニックの事業承継に関するサポートを
行っております。
下記のフォームより お気軽にご相談ください。

個人診療所の場合、法人診療所と比べて、承継の際にすこし特殊な手続きがあります。
個人の診療所では、事業承継に合わせて「診療所の廃止・開設の届出」や、
「開業・廃業届出書」の提出が必要です。
そして、スタッフが継続して働く場合、(同じ名前だったとしても)診療所の事業主が変わるため、一度退職手続きを経たうえで、雇用契約を再度結ぶ形になります。
この手続きを踏むと、有給休暇はリセットされてしまいます。つまり、貯めた有給がゼロになるんですね。
ですので、引き継ぎ前に有給を一斉に使われないように、事前にうまく調整しておくことが大切です。
クリニックにスタッフがいなくて休業になったら大変ですからね。