こんにちは!ペンデル税理士法人 医業経営支援部の親泊です。
医療機関における営業利益(医業利益)とは、医療サービスの提供によって得られる利益です。
具体的には、診療、検査、入院、手術など、医療行為によって得られる収入から、
医薬品の購入費、医療機器の減価償却費、スタッフの人件費などの費用を差し引いたものが
営業利益です。
つまり、医療機関が本業でどれだけ利益を上げているかを示すものが営業利益です。
そのため、クリニックの経営状況を把握するにあたって、営業利益は非常に重要な指標と
考えられており、実際、金融機関からの融資を受ける際にも、
金融機関担当者は、クリニックの営業利益を非常に重要視しています。
本コラムでは、営業利益の基礎知識や分析方法、改善策についてお伝えします。
院長先生や金融機関から融資を受けたいと考えている方は、ぜひお読みください。
(コラムの内容は公開時の法律等に基づいて作成しています)

営業利益とその他利益との違い
クリニックの利益の表し方は、営業利益以外にもさまざまあります。
ここでは、営業利益とその他利益との違いについて解説します。

1.売上高との違い
売上高とは、クリニックが商品やサービスを販売したことで得た総収入を指します。
一方、営業利益は、売上高から売上原価と販売費および一般管理費を引いたものです。
売上原価とは、診療するためにかかった費用の合計を指し、
たとえば、医薬品の仕入価格などです。
販売費および一般管理費とは、クリニックが事業活動を維持するためにかかった費用の合計を指し、
たとえば、スタッフの給与や賃料などです。
つまり、売上高はクリニックの規模を表す指標であり、
営業利益はクリニックの収益性を表す指標と言えます。
2.売上総利益(粗利)との違い
売上総利益とは、売上高から売上原価を引いたものです。
一方、営業利益は、売上総利益から販売費および一般管理費を引いたものです。
つまり、売上総利益は商品やサービスを販売することで得られた利益を指し、
営業利益は、クリニックが本業で得た利益を指します。
3.経常利益との違い
経常利益とは、営業利益に営業外収益を足して、営業外費用を引いたものです。
営業外収益とは、クリニックが本業以外から得られる収益を指し、
たとえば、補助金や、預貯金の受取利息などです。
医業外費用とは、クリニックが本業以外で支払う費用を指し、
たとえば、借入金の支払利息などです。
つまり、経常利益は、クリニックが医業とその他の活動で得た利益を
総合的に表す指標と言えます。
4.税引前当期純利益との違い
税引前当期純利益とは、営業利益に営業外収益と特別利益を足して、
営業外費用と特別損失を引いたものです。
特別利益とは、臨時的に発生した利益を指し、たとえば、固定資産の売却益や保険金などです。
特別損失とは、臨時的に発生した損失を指し、たとえば、固定資産の売却損や災害による損失などです。
つまり、税引前当期純利益は、クリニックがすべての活動で得た利益を総合的に表す指標と言えます。
5.純利益(当期純利益)との違い
純利益(当期純利益)とは、税引前当期純利益から法人税などを引いたものです。
つまり、純利益は、クリニックが最終的に得た利益を指します。
クリニックの最終的な利益であることから、
純利益は、クリニックの財務状況を判断する際に利用されます。
営業利益の計算方法

営業利益は、以下の計算式で算出できます。
営業利益 = 売上高 - 売上原価 - 販売費および一般管理費
たとえば、売上高が1億円、売上原価が4,000万円、
販売費および一般管理費が3,000万円の場合、営業利益は3,000万円です。
なお、販売費および一般管理費をまとめて、『 販管費(はんかんひ) 』と呼ぶケースもあります。
営業利益から読み解くクリニックの実力
ここでは、営業利益からクリニックの状況を読み解く方法についてお話しします。
1.売上高営業利益率を算出し、『同』科目、『他』クリニックと比較する
売上高営業利益率とは、売上高に占める営業利益の割合を示す指標です。
売上高営業利益率が高いほど、効率的に利益を上げていると言えます。
売上高営業利益率は、以下の計算式で算出可能です。
売上高営業利益率 = 営業利益 ÷ 売上高 × 100
たとえば、売上高が1億円、営業利益が2,000万円の場合、売上高営業利益率は20%です。
なお、売上高営業利益率は、診療科目によって平均値が異なります。
そのため、売上高営業利益率からクリニックの状況を読み解く際は、
『同』科目、『他』クリニックと比較することが重要です。

2.過去の営業利益と比較して事業の成長性を把握する
過去の営業利益と比較することで、クリニックの成長性を把握できます。
たとえば、営業利益が年々増加している場合、クリニックは成長していると言えるでしょう。
一方、営業利益が年々減少している場合、クリニックは衰退していると言えます。
このように、営業利益の推移を把握することで、クリニックの成長性を把握できます。
3.総資本営業利益率を算出する
総資本営業利益率とは、総資本に対する営業利益の割合を示す指標です。
総資本とは、クリニックが事業活動に利用できる資金の合計を指します。
総資本営業利益率が高いほど、効率的に利益を上げていると言えます。
総資本営業利益率は、以下の計算式で算出可能です。
総資本営業利益率 = 営業利益 ÷ 総資本 × 100
たとえば、営業利益が2,000万円、総資本が6,000万円の場合、総資本営業利益率は33%です。
なお、総資本営業利益率も、診療科目によって平均値が異なります。

4.スタッフ一人( or 医師一人)あたりの営業利益を算出する
スタッフ一人あたりの営業利益を算出することで、スタッフの生産性を把握できます。
スタッフ一人あたりの営業利益は、以下の計算式で算出可能です。
スタッフ一人あたりの営業利益 = 営業利益 ÷ スタッフ数
たとえば、営業利益が2,000万円、スタッフ数が10人の場合、
スタッフ一人あたりの営業利益は200万円です。
理学療法士や、視能訓練士、歯科衛生士など、診療報酬を算定できるスタッフに注目するなど、
スタッフ一人あたりの営業利益からクリニックの状況を読み解く際は、
診療科目によって調整が必要です。
営業利益を上げるには

ここでは、営業利益を上げるための方法についてお話しします。
1.売上高を増やす
医療機関が営業利益を上げるためには、売上高を増やすことが重要です。
売上高を増やすためには、以下の2つの方法が考えられます。
1つ目は、自由診療の価格を見直すことです。
たとえば、予防接種や健康診断、美容整形やインプラントなどが自由診療にあたります。
自由診療の価格を見直す際には、近隣の医療機関の価格を参考にしたり、
患者ニーズを調査したりすることが考えられます。
2つ目は、患者数を増やすことです。
患者数を増やすためには、以下の3つの方法が考えられます。
- 診療時間を延長する
- 予約システムを導入する
- 患者向け情報発信システムを導入する
たとえば、診療時間を延長することで、仕事帰りや学校帰りの患者さんも
通院しやすくなるでしょう。
また、予約システムを導入することで、患者さんの待ち時間を減らすことができ、
患者満足度の向上につながりますし、
情報発信システムで、実施している検査や専門外来の紹介や、季節性の話題などを
取り上げることで、受診患者の掘り起こしが可能です。
2.売上原価を削減する
営業利益を上げるためには、売上原価を削減することも重要です。
売上原価を削減するためには、以下の3つの方法が考えられます。
1つ目は、仕入価格を見直すことです。
仕入価格を見直すためには、仕入先との交渉や、より安い仕入先を探すことが考えられます。
たとえば、複数の仕入先から見積もりを取ったり、共同購入をしたりすることなどが考えられます。
また、仕入価格だけでなく、仕入条件も見直すことも重要です。
たとえば、支払いサイトを長くしたり、返品条件を緩和したりすることなどが考えられます。
2つ目は、生産性を向上させることです。
たとえば、電子カルテや自動精算機などを導入することで、業務を効率化したり、
人件費を削減したりすることが考えられます。
また、医療機器の共同利用や、医薬品の共同購入なども、生産性を向上させるために
有効な手段です。
医療機関は、これらの取り組みを通じて、患者さんに質の高い医療を提供しながら、
経営効率を高めることが重要です。
3つ目は、在庫管理を最適化することです。
医療機関における在庫管理では、医薬品や医療材料などの在庫を適切に管理することが重要です。
具体的には、在庫の量を適切に管理することで、過剰在庫による廃棄ロスや、
在庫不足による機会損失を防ぐことができます。
また、在庫の回転率を上げることで、キャッシュフローを改善することも可能です。
在庫管理を最適化するためには、在庫管理システムの導入や、定期的な棚卸などが考えられます。
在庫管理システムの導入により、在庫の状況をリアルタイムで把握し、発注や補充を
適切に行うことができます。
定期的な棚卸により、在庫の過不足を把握し、在庫管理の精度を高めることができます。
3.販売費および一般管理費を削減する
営業利益を上げるためには、販売費および一般管理費を削減することも重要です。
販売費および一般管理費を削減するためには、以下の様な方法が考えられます。
1つ目は、人件費を見直すことです。
人件費を見直すためには、残業時間を削減したり、人材配置を最適化したりすることが
考えられます。
たとえば、医療事務の効率化や、看護師の業務分担の見直しなどが考えられます。
また、人件費を削減するだけでなく、スタッフのモチベーションを維持することも重要です。
スタッフのモチベーションを維持するためには、働きやすい職場環境を整備したり、
キャリアアップの機会を提供したりすることが考えられます。
2つ目は、広告宣伝費を見直すことです。
医療機関における広告宣伝費の見直しでは、費用対効果の最大化が重要です。
地域住民のニーズに応じた情報発信を意識し、ウェブサイトやSNSを活用したオンライン広報を
強化しましょう。
たとえば、クリニックの専門性や提供サービスに関する情報を充実させ、
健康に関するコラムや動画を発信するなど、有益なコンテンツを提供します。
これにより、信頼性を高め、潜在患者の関心を引くことができます。
また、地域イベントや健康セミナーへの参加も有効です。
地域住民との接点を増やし、クリニックの認知度向上に繋げます。
広告宣伝費の削減だけでなく、広報戦略全体を見直し、最適な広報活動を行いましょう。
3つ目は、水道光熱費を見直すことです。
クリニックでは、医療機器や空調設備など、多くの電力を使用します。
そのため、水道光熱費は、医療機関の経費の中でも大きな割合を占めるでしょう。
水道光熱費を見直すためには、節水や節電を心がけることが重要ですので、たとえば、
こまめに電気を消したり、節水型のトイレを導入したりすることが考えられます。
また、より安い電力会社に乗り換えることも有効です。
電力会社を比較検討することで、より安い料金プランを見つけられる可能性があります。
4つ目は、その他経費を見直すことです。
その他経費を見直すためには、不要な経費を削減したり、より安いサービスを利用したり
することが考えられます。
たとえば、医療機器入れ替えに合わせ、契約するリース会社を見直してみる。
クレジットカードの取扱い代理店の手数料を複数見比べてみるなど、
コスト削減につながる可能性があります。
まとめ
営業利益は、クリニックの経営状況を把握するにあたって非常に重要な指標で、
適切に営業利益を分析することで、クリニックの収益性や成長性を把握できます。
また、営業利益を上げるためには、売上高を増やしたり、売上原価や
販売費および一般管理費を削減したりすることが重要です。
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