こんにちは!ペンデル税理士法人医業経営支援部の親泊です。
2024年11月1日から「フリーランス新法」
(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)が施行されました。
「フリーランス」と聞くと、Webデザイナーやライターなど、
クリニック経営とは直接関係ないように思われるかもしれません。
ですが院長、この法律はクリニック経営に大いに関係します。
特に「非常勤医師」や「スポット医師」など、
業務委託契約で働く医師との契約が対象となる可能性があります。
一度、自院の「業務委託」契約は大丈夫か、見直してみてはいかがでしょうか。
(コラムの内容は公開時の法律等に基づいて作成しています)
フリーランス新法とは?
この法律は、立場の弱いフリーランス(法律上は「特定受託事業者」)を、
発注者による不当な取り扱いから保護することを目的としています。
「特定受託事業者」とは、簡単に言えば、従業員を雇用していない個人事業主や、
代表者以外に役員・従業員がいない一人法人のことです。
クリニックの現場で言えば、以下のような方々が該当する可能性があります。
- 非常勤医師、スポット医師
- 産業医
- (個人に委託している)医療記事の監修者
- (個人に委託している)清掃スタッフやウェブサイト管理者
この法律はフリーランスを守るものであると同時に、フリーランスに業務を委託する
すべての発注者に義務を課すもので、クリニックも例外ではありません。
違反があった場合は、まず行政指導・勧告の対象となり、
勧告に従わない場合に限り、50万円以下の罰金が科される可能性があります。
クリニック(発注者)に課される主な義務
クリニックがフリーランス(特定受託事業者)に業務を発注する場合、
主に以下の義務が課されます。
1.取引条件の書面等による明示
「いつものお願い」といった口頭での発注は許されなくなります。
業務内容、報酬額、支払期日などを記載した契約書や発注書(メール等でも可)を
直ちに交付しなければなりません。
2.報酬の60日以内支払い
報酬は、業務完了日または報酬額確定日から60日以内に支払う必要があります。
「月末締め、翌々月末払い」など、支払いサイトが60日を超える運用をしている場合、
早急な見直しが必要です。
3.ハラスメント対策
院長や従業員から、委託先のフリーランスに対するセクハラやパワハラを
防止する体制整備(相談窓口の設置や研修など)が求められます。
4.募集情報の的確な表示
フリーランス医師を募集する際などに、虚偽の表示や誤解を生む表示
(例:実際より著しく高い報酬額を提示する)をしてはなりません。
5.(6ヶ月以上の継続契約の場合)中途解除の事前予告
6か月を超える継続的な業務委託契約を一方的に解除する場合、
やむを得ない事由がない限り、30日前の予告が必要です。
最大のリスク:「雇用」か「業務委託」か
この新法の話を聞いて、「うちは非常勤医師と業務委託契約書を交わしているから大丈夫」と
思われた先生は、最も危険かもしれません。
契約書の名称ではなく、実際の勤務実態が重視されて判断されるためです。
パターンA:実態が「雇用」の場合(偽装請負リスク)
多くのクリニックが、このリスクを抱えている可能性があります。
以下の項目に当てはまらないか、胸に手を当ててみてください。
- 院長が業務の指揮命令をしている(例:「次はAさんを診て」)。
- 勤務時間が厳格に決められており、遅刻・早退が管理されている。
- 医師側が自由に勤務を断れない(シフトの諾否の自由がない)。
- 医師本人が代理(代わりの医師)を立てることが認められていない。
これらの実態がある場合、法的には「業務委託」ではなく「雇用契約」と見なされます。
この場合、フリーランス新法の対象外となりますが、「だから安心」では全くありません。
むしろ、これは「偽装請負」状態であることを意味し、フリーランス新法の問題ではなく、
労働基準法や労働契約法に基づく別の法令違反となる可能性があります。
パターンB:実態が「真の業務委託」の場合
逆に、上記のような指揮命令や時間拘束がなく、医師側の裁量が非常に大きい場合
(例:成果物(読影レポート)を期日までに納品するだけ等)は、
「業務委託」と認められるでしょう。
この場合は、フリーランス新法が全面的に適用されます。
上記で挙げた「取引条件の明示」や「60日以内支払い」などの義務を
直ちに遵守する体制を整える必要があります。
クリニックが今すぐ実行すべきこと
クリニックとして、この新法施行を機に、全ての契約を見直す必要があります。
- 全契約の棚卸し
現在「業務委託」として契約している全ての相手
(非常勤医師、スポット医師、業者など)をリストアップします。
- 実態の分析
それぞれの契約について、「指揮命令」「時間拘束」などの観点から、
実態が「雇用」なのか「業務委託」なのかを仕分けします。
- 契約の再構築
「雇用」実態がある場合は、労働基準法違反のリスクを直視し、
速やかに雇用契約への切り替えと、社会保険加入などの整備を進めます。
「業務委託」実態である場合は、フリーランス新法に対応した契約書を整備し、
支払いサイトやハラスメント窓口を見直します。
まとめ
- フリーランス新法はクリニックにも大いに関係がある
「発注者」として、取引条件の明示や60日以内支払い等の義務を負います。
- 最大の焦点は「非常勤医師」の契約実態
契約書の名称ではなく、指揮命令や時間拘束などの「実態」が重視されます。
- 実態が「雇用」なら、「偽装請負」のリスク
フリーランス新法ではなく、
労働基準法や労働契約法に基づく別の法令違反となる可能性があります。
- 実態が「業務委託」なら、新法遵守が必須
契約書を直ちに整備し、支払いサイトなどを見直す必要があります。
この新法は、これまで「業務委託」という便利な言葉で曖昧にされてきた
契約関係の適正化を社会全体に迫るものです。
リスクが顕在化する前に、自院の体制を見直すチャンスと捉えましょう。
「業務委託」という言葉の便利さに甘えて、
本来「雇用」とすべき労務管理コストから目を背けてはいませんか?
労働基準監督署の調査が入ってからでは、
過去に遡って莫大な追徴コストが発生する可能性もあります。
いずれにせよ院長として、クリニックの適法な運営と、
(雇用であれ業務委託であれ)働く人を守る義務を両立させることを考える必要がありますね。
契約関係や労務の問題は、
専門的な判断を伴うため、院長だけで判断するのは非常に困難です。
こじれてしまう前、調査が入ってしまう前に、専門家にご相談いただければと思います。
ペンデル税理士法人医業経営支援部では、
クリニックの開業支援、人事労務に関するサポートも行っておりますので、
お気軽にご相談ください。
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