こんにちは!ペンデル税理士法人医業経営支援部の親泊です。
医療法人の理事長や個人クリニックの院長先生にとって、引退や万が一に備えた「事業承継」および「個人の相続対策」は避けて通れない重要課題です。
特にクリニックの資産(医療法人の出資持分や事業用不動産など)は高額になりやすいため、後継者のご子息と、医療に関わらない他のご子息がいらっしゃる場合、遺産分割において過去の生前贈与が「特別受益」として大きな争点になるケースが少なくありません。
今回は、相続トラブル(いわゆる争族)を防ぐために必ず知っておくべき「生命保険金の扱い」と「生前贈与のルール」について解説します。
(コラムの内容は公開時の法律等に基づいて作成しています)
生命保険金は「特別受益」として持戻しの対象になるか?
クリニックの円滑な承継資金や、代償分割(不動産や自社株を相続する代わりに、他の相続人へ現金を渡す方法)の資金源として、後継者を「生命保険の受取人」に指定する対策は実務上よく用いられます。 原則として、死亡保険金は受取人固有の財産とされるため、遺産分割の対象にはならず、他の相続財産に加算(持戻し)される「特別受益」には該当しません。
しかし、例外に注意が必要です。過去の最高裁判例(平成16年)において、保険金額や遺産全体とのバランス、被相続人との生活状況などを総合的に考慮し、著しい不公平が生じると判断された場合には、例外的に特別受益に準じて持戻しの対象となる場合があることを示しました。
保険金を活用する際は、遺産総額に対して保険金額が過大になりすぎていないか、他の相続人の遺留分(最低限の取り分)に配慮しているかなど、遺産分割全体を踏まえたバランス調整が求められます。
住宅資金や「開業資金」の援助は特別受益になる
生前に行われた「生計の資本としての贈与」などは特別受益に該当し、遺産分割の際に相続財産に持ち戻して計算されます。
例えば、ご子息の結婚に伴う多額の新生活資金や、住宅購入資金の援助などは、税務上の非課税特例を利用していた場合であっても、民法上の特別受益に該当します。
クリニック開業に際して院長先生に多いケースとして、お子様へ開業資金の援助を行った場合も、生計の資本としての贈与に当たるため、のちの相続で特別受益として扱われるケースも多いです。
なお、通常の扶養義務の範囲内である生活費や学費などは特別受益には該当しません。また、婚姻期間20年以上の夫婦間で行われた居住用不動産等の贈与には、持戻し免除の意思表示があったものと推定される制度もあります。
【要注意】「税務上の加算(7年)」と「民法上の持戻し(原則として期間制限なし)」のズレ
ここで最も混同しやすいのが、「税金計算」と「遺産分割」のルールの違いです。
令和5年度の税制改正により、相続税の計算において生前贈与を加算する期間(生前贈与加算)は、従来の3年から「相続開始前7年以内」へと延長され、段階的な経過措置を経て適用されます。
しかし、これはあくまで「税務上(相続税法)」のルールです。「民法上」の遺産分割における特別受益の持戻しについては、原則として期間制限がありません。
10年前や20年前の開業資金の贈与であっても、特別受益に該当すれば、遺産分割の計算に組み込まれる対象となるのです。
円満な承継には早期の対策を
相続対策は、単なる「相続税の節税」だけでなく、「円満な遺産分割」の視点が不可欠です。税法と民法のルールのズレを正しく理解しておかないと、ご家族間で後戻りのできないトラブルに発展しかねません。
ペンデルグループでは、医療機関の事業承継から、院長先生個人の生前贈与・相続税申告まで、税務を中心に、必要に応じて司法書士・弁護士等と連携しながらサポートしております。
将来の承継や相続にご不安がある方は、取り返しのつかない事態に陥る前に、ぜひペンデルへご相談ください。
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(参考)
国税庁:No.4161 贈与財産の加算と税額控除(暦年課税)
法務省:「相続に関するルールが大きく変わります」(広報用PDF)