こんにちは!ペンデル税理士法人 医業経営支援部 親泊です。
今回は、クリニックの事業承継において重要なポイントの一つ
「引継ぎ職員の雇用条件確認」について、詳しくお話しします。
事業承継を考える買い手にとって、まず気になるのは
クリニックの収入とその内訳、経費とその詳細、そして引き継ぐ資産内容です。
その中でも、特に注目される経費の一つが「人件費」です。
事業承継を行うクリニックは、多くの場合、同じ診療科目の医師が引き継ぐことが多く
結果的に、求めるスタッフのスキルや経験も重なることが多々あります。
そのため、スタッフの引き継ぎが可能であることは
買い手にとって非常に大きなメリットとなります。
新たにスタッフをゼロから募集する手間が省けるだけでなく、既にクリニックの運営を
熟知しているスタッフがいれば、クリニック運営がスムーズに進むからです。
しかし、スタッフの引き継ぎには注意が必要です。
特に、長年勤務しているスタッフの給与や待遇が、経年的な昇給や慣例によって
非常に好条件となっている場合があります。
例えば、30年前に雇用された看護師が、現在では月額60万円を受け取っているという事例や
夏と冬で賞与が合計5か月分支給されているケースもあります。
さらに、月給制のスタッフが週に3.5日しか勤務していない場合や
パート職員に免除されている業務があるクリニックなど
さまざまな雇用条件が現状として存在しています。
このように、引き継ぐスタッフの雇用条件が非常に好待遇である場合、
もし買い手側がこれを事前に確認せずに
「スタッフは必ず引き継ぎます」「今まで通りに働いてもらいます」といった形で
安易に前院長に伝えてしまうと、後々トラブルが発生する可能性が高まります。
なぜなら、スタッフ側はこれまでの雇用条件がそのまま維持されると期待してしまい
いざ新たな雇用契約を結ぼうとした際に、条件が異なっていると「話が違う!」と感じるからです。
最悪の場合、スタッフは不信感を抱き、「引き続き勤務しません!」と
辞めてしまうこともありえます。
こうした事態が起こると、買い手側は急遽、新たに求人活動を
行わなければならなくなり、大きな負担となります。
このような問題を避けるためにも、
クリニックの事業承継を進める際には、まず引き継ぐスタッフ全員の雇用条件を
しっかりと確認することが重要です。
基本的には、雇用契約書を確認し、そこに変更点が無いかを売り手である院長やスタッフに
確認することをおすすめします。
(クリニックで正式な雇用契約書が使用されていない場合は
労働条件通知書を用いて確認を行ってください)
さらに、可能であればスタッフ本人への確認も行うべきですが、事業承継の場合には
直接ヒアリングを行うことが難しいため、前院長との確認が非常に重要となります。
前院長も、スタッフの継続雇用を希望する場合は、積極的に買い手側の確認作業に協力することが求められます。
スタッフの雇用条件を確認する際に、特に注意すべき項目としては以下の点が挙げられます
勤務時間
スタッフが何時から何時まで勤務しているのか、週に何日働いているのかを確認します。
特に月給制のスタッフがパートタイムのような勤務体制になっていないかなども
重要な確認ポイントです。
勤務曜日
特定の曜日にしか勤務していないスタッフがいる場合、その曜日が新しい院長のニーズと
合致するかを確認する必要があります。
給与形態
月給制なのか、時給制なのか、またそれぞれの給与額が地域水準に合っているかを
確認します。特に長期勤務者の場合、昇給が進んでいるケースが多いため
その金額が能力、業務内容を比べ適正かどうかも考慮しましょう。
昇給や賞与の内容
昇給の頻度や金額、賞与の支給月数や条件も重要です。
過去の慣例が続いている場合、引き継ぎ後もそれを維持するのか
新しい条件を設定するのかを明確にする必要があります。
加入健康保険や年金制度
スタッフが加入している社会保険や年金制度についても確認します。
特に従業員規模が変わる場合は、適用される制度が変わることもあるため、注意が必要です。
就業規則など院内規定
院内のルールや規定がスタッフにどのように適用されているかも確認すべきです。
休暇制度や残業時間の取り扱いなど、クリニックごとに異なる場合があるため
これらも見逃せないポイントです。
雇用契約書と労働条件通知書は、似ている部分も多いので混同されがちですが
実は少し異なる書類です。
労働条件通知書は、会社が従業員に対して、労働条件を明示するための書類で
法律で作成が義務付けられています。
一方、雇用契約書は、会社と従業員が労働条件について合意したことを
書面で確認するための書類で、法律上の作成義務はありません。
ただし、雇用契約書を作成しておくことで、後々のトラブルを未然に防ぐことができるため、
多くの会社で両方の書類を作成しています。
特に、医療機関などでは、以前は労働条件通知書が整備されていなかったケースも
ありましたが、近年では、労働条件に関する法整備が進んだこともあり
ほとんどの医療機関で両方の書類(少なくとも、労働条件通知書)が作成されています。
義務はなくても、労使トラブル防止のためにも、しっかり雇用契約書で
締結するようにしたいですね。
事業承継をスムーズに進めるためには、以上の点を踏まえ
スタッフの雇用条件を正確に把握し、事前に問題点を洗い出しておくことが大切です。
もし、確認の方法やタイミングについて迷うことがあれば、専門家のサポートを
受けるのも一つの手です。
ペンデル税理士法人 医業経営支援部では、クリニックの事業承継に関するサポートを
行っておりますので、お気軽にご相談ください。