こんにちは!ペンデル税理士法人 医業経営支援部 親泊です。
今回は、クリニック承継において、よく言われる『承継は低コストで開業できる!』が
本当にその通りかどうかについてお話ししたいと思います。
新規開業をお考えの先生にぜひ読んでいただきたい内容にしたいと思いますので
是非ご確認ください。
引継ぎ先を探したい売り手の先生にも、条件を検討する一助になればと思います。
(コラムの内容は公開時の法律等に基づいて作成しています)

内装、医療機器から見るコスト
開業準備の際に大きく費用がかかるものとして、内装や医療機器の導入が挙げられます。
内装工事費用は、東日本の震災後の復興需要や、東京オリンピックの前の需要増で上昇傾向が始まり
コロナ禍を経て最近の物価上昇により、この約10年で以前の1.5倍にまで高騰している
との報告もあります。
同様に、医療機器も販売価格が徐々に上昇する傾向にあります。
一般内科の開業時に必要となる医療機器の導入費用は、おおよそ1,500万~2,000万円が目安となるでしょう。
現在営業中のクリニックを引き継ぐ際には、内装や医療機器がそのまま使用できる場合が多く
診療方針が大きく異ならない限り、大規模な改装などは不要です。
このため、初期費用を抑えられ、「低コストでの開業が可能である」といえるケースがあります。
患者さんに、認知してもらうためのコスト
新規開業の場合、地域の住民にクリニックを認知してもらうための広告宣伝活動も必要です。
具体的には、開院チラシの配布や内覧会の開催、インターネット広告などの手段で
地域にアピールをしていきます。
告知の規模にもよりますが、150万~200万円程度の費用を見込んでおくと良いでしょう。
承継開業の場合、この認知活動コストの大半が削減できるため
その点でも低コストでの開業が可能です。
クリニック承継に必要な費用
内装や医療機器、地域での認知度の観点から、新規開業に比べて
承継開業が低コストであることについてお話ししましたが
ここからはクリニック承継特有のコストについて説明いたします。
まず、内装や医療機器の引き継ぎには、売り手に対価を支払う必要があります。
金額に決まりはなく、売り手と買い手の双方が納得できる金額を設定することが重要です。
場合によっては、売り手がまだまだ使用できると考える内装や医療機器であっても
買い手から見て改装や買い替えが必要とされる場合もあります。
この場合は、引継ぎに合わせて改装工事や医療機器購入の費用が追加で発生します。
また、売り手が設定した譲渡額に内装・医療機器の価値が含まれる場合
買い手側のコスト負担が増えることもあります。
次に、「営業権」があります。
譲渡額がクリニックの純資産額を上回る場合の差額として、クリニックのノウハウや立地など
代替できない無形の価値が営業権として金額に換算されます。
これは、長年の診療で築かれた認知度や信頼関係があるために安定して患者さんが来院する、あるいは患者さん対応の工夫が診療の効率化につながっているなど
そのクリニック独自の強みです。
先生方は、“純資産額+営業権=譲渡額”と捉えるとわかりやすいかと思います。
営業権(譲渡額)の設定方法は多様
営業権の設定は、承継の仲介会社や売り手側の考え方によってさまざまです。
たとえば、税引き前利益の1年分や税引き後営業利益の3年分を営業権とし
それに資産の時価を加えた譲渡額とするケースがあります。
また、他には事業価値の6倍や将来キャッシュフローの現在価値を算出して
譲渡額とする場合もあります。
この〇年分、〇倍などは、仲介会社の経験や、売り手の意向で設定されますので
提示された譲渡額が、買い手側で納得できるかの確認が必要になります。
どのような考え方で譲渡額や営業権、資産時価を設定しているかを確認いただき
クリニック承継を進めるかしっかりと検討していただければと思います。
最後に
必ずしも「承継は低コストで開業できる!」と言い切ることはできませんが
営業権や譲渡額の設定が納得のいくもので、内装や設備、診療方針に大きな違いがなければ
新規開業に比べて低コストで開業できる可能性は高いです。
特に、同じ科目の競合が多い歯科や内科など、認知度の向上に時間がかかる科目であれば
クリニック承継を積極的に検討してもよいでしょう。
開業には、内装や医療機器以外にも多くの工程で費用が発生しますので
削減できる部分はしっかり削減していきましょう。
事業承継を円滑に進めるために
譲渡額(営業権を含む)の設定内容を最初にしっかりご確認されることをお勧めします。
明確な説明がない場合や理解が難しい設定方法であれば
納得できるまで話し合うことが成功の鍵です。
その際は、単に価格の引き下げだけを求めるのではなく
具体的な経営数字に基づいて話し合うことで売り手の理解を得やすくなります。
もし、事業承継でお困りであれば税理士のサポートを受けるのも一つの手です。
ペンデル税理士法人 医業経営支援部では、クリニックの事業承継に関するサポートを
行っておりますので、お気軽にご相談ください。
お問い合わせは、お問い合せフォームからどうぞ。

営業権の設定は本当に様々です。上記で挙げた考え方以外では
1)売り手開業時にかかった費用が5,000万なので、譲渡額も5,000万と設定した事例
2)第3者からの借入額を、譲渡額とした事例
3)職員の雇用確約を条件に、譲渡額を500万円とされた事例
いろいろな事例がありますが
患者さん、職員のためにもお互い納得のいく譲渡額を考えたいものですね。