こんにちは!ペンデル税理士法人 医業経営支援部の親泊です。
地域医療を支えるかけがえのないお医者様として、多くの患者の健康を守り、時には心の支えにもなられていることでしょう。しかし、ふとした時に考えることはありませんか?「いつまでこの診療を続けられるのだろうか」「自分のクリニックを、将来はどうすればいいのだろうか」と。
クリニックの承継。それは、単に医院を誰かに譲るということではありません。先生が長年培ってきた医療への情熱、患者との信頼関係、そして地域医療への貢献、そのすべてを未来へと繋ぐ、極めて重要な決断です。しかし、承継は決して簡単な道のりではありません。税務、法務、患者への説明、後継者選び…考えるべきことは山ほどあります。 「まだ先のことだから」と考えるのは、実はリスクかもしれません。なぜなら、準備には時間がかかるからです。
しかし、ご安心ください。このコラムを読み終える頃には、先生はきっと、クリニックの未来について、これまで以上に明確なビジョンを描けるようになっているはずです。
そして、行動に移す際に、ペンデル税理士法人を頼れるパートナーとして選んでいただければ幸いです。
(コラムの内容は公開時の法律等に基づいて作成しています)

クリニック承継の現状と早期準備の重要性
近年、クリニックの承継を考える先生が急速に増加しています。高齢化による引退、後継者不足、医療制度の複雑化など、理由は様々ですが、共通しているのは「患者のために、地域医療のために、クリニックを未来に残したい」という強い想いです。しかし、承継は決して簡単な道のりではありません。準備不足で後悔する先生も少なくありません。
例えば、ある先生は、後継者が見つからず、やむなく閉院を選びました。長年通っていた患者は路頭に迷い、地域医療にも大きな影響を与えました。また、別の先生は、税務対策を怠ったために、多額の税金を支払うことになりました。これらの事例からわかるように、承継は早期の準備が不可欠です。早ければ早いほど、選択肢は広がり、納得のいく承継が実現できます。
では、なぜ早期準備が重要なのでしょうか。
- 時間的余裕の確保:承継には、後継者選び、育成、患者やスタッフへの説明、税務・法務対策など、多岐にわたる準備が必要です。時間をかけて丁寧に準備することで、納得のいく承継が実現できます。
- 選択肢の拡大:早期に準備を始めることで、親族承継、第三者承継、医療法人化など、様々な承継方法を検討できます。後継者が見つからない場合でも、時間をかけて探すことができます。
- 税務・法務対策の徹底:承継には、贈与税、相続税、譲渡所得税など、税務上の問題が伴います。早期に税理士と連携し、節税対策を行うことで、税負担を軽減できます。また、医療法、税法、民法など、法務上の問題も専門家と連携して解決できます。
- 患者、スタッフとの信頼関係構築:承継は、患者やスタッフにとっても大きな変化です。時間をかけて丁寧に説明し、理解と協力を得ることで、スムーズな承継が実現できます。
- 後継者の育成:親族承継の場合、後継者の育成には時間がかかります。早期に後継者を決め、必要な知識やスキルを習得させることで、承継後のスムーズな経営が実現できます。

一方、準備不足で承継に臨むと、様々なリスクが生じます。
- 後継者が見つからない
- 税務・法務上の問題が解決できない
- 患者やスタッフが不安になる
- 承継後に経営が立ち行かなくなる
これらのリスクを回避するために、早期準備は不可欠です。
承継の種類と特徴
クリニックの未来を託す承継。その選択肢は、先生の状況や想いによって大きく異なります。ここでは、代表的な3つの承継方法、「親族承継」「第三者承継」「医療法人化」について、それぞれの特徴を深掘りしていきましょう。

1. 親族承継:家族の絆と共に歩む道
親族承継は、お子様や配偶者、兄弟など、親族にクリニックを譲る方法です。長年共に歩んできた家族だからこそ、患者やスタッフも安心して受け入れやすいのが最大のメリットと言えるでしょう。
メリット
- 信頼関係:親族間の強い信頼関係に基づき、スムーズな承継が期待できます。
- 理念の継承:先生の医療に対する理念や想いを、最も確実に受け継いでもらえる可能性が高いです。
- 患者の安心感:顔見知りの親族が後を継ぐことで、患者の不安を軽減できます。
デメリット
- 後継者の育成:親族に医師や経営者がいない場合、育成に時間がかかることがあります。
- 親族間のトラブル:複数の親族がいる場合、後継者争いや相続問題に発展する可能性も否定できません。
- 後継者の意思:親族にクリニックを継ぐ意思がない場合、承継自体が難航します。
親族承継は、家族の絆を大切にしながら、クリニックの未来を託す理想的な選択肢の一つです。しかし、後継者の育成や親族間の合意形成など、慎重に進めるべき課題も存在します。
2. 第三者承継:新たな才能に託す未来
第三者承継は、従業員や他の医療機関、M&Aなどを通じて、第三者にクリニックを譲る方法です。親族に後継者がいない場合や、新たな経営戦略を取り入れたい場合に有効な選択肢です。
メリット
- 後継者の選択肢:親族以外からも、能力や意欲のある後継者を探すことができます。
- 経営の刷新:新しい経営者の視点やノウハウを取り入れることで、クリニックの活性化が期待できます。
- M&Aの活用:M&Aを利用すれば、まとまった売却益を得ることも可能です。
デメリット
- 条件交渉の難航:第三者との条件交渉は、親族間よりも複雑になることがあります。
- 患者の不安:患者は、新しい経営者や医師に対して不安を感じることがあります。
- 情報漏洩のリスク:M&Aの場合、承継契約前に閉院情報が患者や業者など外部に漏洩するリスクがあります。
第三者承継は、クリニックの新たな可能性を切り開く選択肢です。しかし、後継者の選定や条件交渉、患者への説明など、慎重に進めるべき課題も多く存在します。
3. 医療法人化:永続的な発展を目指して
医療法人化は、クリニックを医療法人に組織変更し、理事長を交代することで承継する方法です。法人化することで、後継者への資産承継や、後継者育成期間の確保がスムーズに進む場合があります。
メリット
- 円滑な承継:基金拠出型医療法人には、出資持分がないため、相続による持分の分散や評価の問題が発生しません。これにより、後継者へのスムーズな経営権の移行が期待できます。
- 後継者の育成:後継者は、理事などの立場で法人運営に関与しながら、長期的な視点で経営スキルを習得できます。
- 社会的な信用:医療法人は、個人事業に比べて社会的信用度が高いと見なされ、優秀な後継者も確保しやすくなります。
デメリット
- 法人化の手続き:法人化には、複雑な手続きや費用がかかります。
- 運営の負担:法人化後は、医療法に基づく運営や会計処理が必要になります。
- 理事長の責任:理事長は、法人全体の責任を負うことになります。
医療法人化は、クリニックの永続的な発展を目指す上で、有効な選択肢の一つです。しかし、法人化の手続きや運営には、専門的な知識が必要となります。
先生にとって最適な選択は?
どの承継方法を選ぶかは、先生の状況や想いによって異なります。まずは、それぞれの方法のメリット・デメリットを比較検討し、先生にとって最適な選択肢を見つけましょう。 そして、いずれの承継方法を選択するにしても、大切なことは早期に着手することです。納得のいく承継を実現するためにも、早めの準備を心がけましょう。
承継に向けた準備のステップとスケジュール
限られた時間でクリニックの承継を成功させるためには、綿密かつ効率的な準備が不可欠です。各ステップを正確に、そして確実に実行していく必要があります。

①基盤固めと戦略立案
最初は、現状分析と承継計画の策定に集中します。クリニックの経営状況、財務状況、患者様のデータ、そしてスタッフの構成などを詳細に分析し、現状を正確に把握します。この分析結果をもとに、具体的な承継計画を立案します。誰に承継するのか、いつ承継するのか、どのような方法で承継するのか。これらの重要な決定を、この期間内に固めます。同時に、後継者候補の選定も開始します。親族、従業員、または第三者。多角的な視点から、最適な後継者を選び出します。
②育成と関係者への説明
次は、後継者の育成と関係者への説明に重点を置きます。後継者には、必要な知識とスキルを習得させるための研修や実務経験を提供します。経営、医療技術、患者様とのコミュニケーション。多岐にわたる分野での育成が必要です。並行して、患者様、スタッフ、取引先など、関係者への説明を開始します。承継の理由、後継者の紹介、そして承継後のビジョン。これらの情報を丁寧に伝え、理解と協力を得ることが重要です。
③税務・法務対策と実行準備
さらに、税務・法務対策と承継実行の準備に費やします。税理士、弁護士と連携し、税務上の問題、法的な問題を解決します。事業承継税制の活用、契約書の作成、各種手続きの確認。専門家のサポートを受けながら、確実に準備を進めます。そして、承継実行のための最終準備を行います。必要な書類の作成、関係者との最終確認、そして承継当日のシミュレーション。綿密な準備が、スムーズな承継を可能にします。
④承継実行と移行
最後は、承継の実行と移行期間です。計画に基づいて、承継を実行します。後継者への権限委譲、関係者への最終報告、そしてクリニックの運営を引き継ぎます。承継後も、後継者をサポートし、スムーズな移行を支援します。定期的なミーティング、相談窓口の設置、そして必要に応じたアドバイス。これらのサポートを通じて、後継者が安心してクリニックを運営できるようにします。
仮に2年間という準備期間を設けたとしても決して長くはありません。しかし、綿密な計画と効率的な実行によって、クリニック承継は必ず成功します。
承継における税務・法務の注意点
クリニックの承継は、単に経営権を譲るだけでなく、税務と法務の複雑な課題が絡み合い、これらの問題を迅速かつ的確に処理する必要があります。税務と法務の対策を怠ると、予期せぬ税負担や法的なトラブルに繋がり、承継自体が頓挫する可能性さえあります。
税務のポイント
まず、税務においては、贈与税、相続税、譲渡所得税が主な検討事項となります。親族内承継の場合、贈与税や相続税が問題となることが多いでしょう。特に、クリニックの評価額が高額になるほど、税負担は重くなります。そこで、生前贈与や相続時精算課税制度の活用、医療法人化による事業承継税制の適用などを検討する必要があります。
また、第三者承継の場合、譲渡所得税が課税されることがあります。譲渡価額の設定や、税務上の特例を適用することで、税負担を軽減できる可能性があります。税理士と密に連携し、クリニックの財務状況を正確に把握した上で、最適な節税対策を講じることが重要です。
法務のポイント
次に、法務においては、医療法、税法、民法など、多岐にわたる法律が関係します。特に、患者カルテの取り扱い、従業員の雇用契約、不動産の権利関係などは、慎重に検討する必要があります。
患者カルテの取り扱いについては、個人情報保護法を遵守し、患者の同意を得た上で、適切な情報移管を行う必要があります。従業員の雇用契約については、労働基準法を遵守し、従業員の権利を守るための適切な措置を講じる必要があります。不動産の権利関係については、不動産登記や賃貸借契約などを確認し、権利関係を明確にする必要があります。
承継にたけた専門家と連携し、これらの法的問題を事前に洗い出し、解決策を講じることが重要です。特に、契約書の作成や修正、各種許認可の取得など、専門的な知識が必要な手続きは、専門家のサポートが不可欠です。
短期間での対策
承継を成功させるためには、税務と法務の専門家と連携し、タイムスケジュールを明確にし、役割分担を関係者全員が認識することが重要です。
まず、現状分析を行い、税務と法務のリスクを洗い出します。次に、税務対策と法務対策を並行して進め、各種手続きを迅速に処理します。そして、定期的な進捗確認を行い、計画通りに進んでいるかを確認しましょう。 承継の専門家は、クリニックの状況や先生の希望を考慮し、最適な承継プランを提案してくれるでしょう。また、税務署や関係機関との交渉も代行してくれるため、先生は安心して承継準備を進めることができます。
後継者選びのポイント
クリニック承継において、後継者選びは最も重要な決断の一つです。なぜなら、後継者は先生が長年築き上げてきたクリニックの理念、患者との信頼関係、そして地域医療への貢献を未来へと繋ぐ、かけがえのない存在だからです。では、どのようにして最適な後継者を見つければ良いのでしょうか。

まず、能力です。後継者には、クリニックを運営していくための経営能力、最新の医療知識、そして患者やスタッフと円滑なコミュニケーションを図るための能力が求められます。経営能力とは、財務管理、人材育成、マーケティングなど、多岐にわたります。医療知識は、日進月歩で進化する医療技術に対応していくために不可欠です。そして、コミュニケーション能力は、患者との信頼関係を築き、スタッフをまとめ、地域社会と連携するために重要です。
次に、意欲です。後継者には、「先生のクリニックを継ぎ、さらに発展させていきたい」という強い意欲が求められます。クリニックの経営は、決して楽な道のりではありません。困難な状況でも諦めずに努力し、クリニックを成長させていく覚悟が必要です。また、先生の医療に対する情熱や理念を理解し、共感してくれる人物であることが望ましいでしょう。
そして、信頼です。後継者は、患者、スタッフ、そして地域社会からの信頼を得られる人物でなければなりません。患者からの信頼は、安心して治療を受けられる環境を提供するために不可欠です。スタッフからの信頼は、チームワークを円滑にし、クリニックのパフォーマンスを向上させます。地域社会からの信頼は、地域医療への貢献を継続するために重要です。
さらに、相性も重要な要素です。後継者とは、長い付き合いになる可能性があります。先生と後継者の相性が良ければ、円滑なコミュニケーションが図れ、意見の対立も少なくなるでしょう。相性が悪いと、些細なことで意見が対立し、ストレスを感じることが増えるかもしれません。後継者候補とは、時間をかけてじっくりと話し合い、お互いの価値観や考え方を確認することをおすすめします。
後継者選びは、決して簡単な作業ではありません。しかし、先生が納得できる後継者を選ぶことが、クリニックの未来、そして地域医療の未来を大きく左右します。焦らず、時間をかけて、慎重に後継者を選びましょう。
患者、スタッフへの説明
クリニックの承継は、先生だけでなく、患者やスタッフにとっても大きな変化です。円滑な承継を実現するためには、関係者への丁寧な説明と、不安を解消するためのコミュニケーションが不可欠です。

患者への説明
長年通い慣れたクリニックの先生が変わることは、患者にとって大きな不安材料です。特に、高齢の患者や、特定の先生に強い信頼を寄せている患者ほど、不安は大きいでしょう。
個別説明:診察に合わせて、後継者の先生について、お伝えしましょう。A6サイズ程度の、挨拶状などを用意すると良いでしょう。
院内掲示・ホームページでの告知:承継に関する情報を、院内掲示やホームページで告知しましょう。後継者のプロフィールや、承継後の診療体制などを詳しく掲載することで、患者の不安を軽減できます。
後継者の紹介:後継者の先生には、承継前から患者と接する機会を設けましょう。診察の見学や、簡単な問診など、顔なじみになることで、患者は安心感を覚えるでしょう。
承継後のサポート体制:承継後も、必要に応じて一定期間、先生が非常勤で診察に入るなど、「先生でなければ」という患者へのサポート体制を整えましょう。
スタッフへの説明
クリニックのスタッフは、日々の診療を支える重要な存在です。承継は、スタッフの雇用条件や役割分担などに影響を与える可能性があるため、丁寧な説明と、不安を解消するためのコミュニケーションが重要です。
説明会の開催:承継の時期、理由、クリニックの今後の展望、スタッフの雇用条件などについて、丁寧に説明しましょう。質疑応答の時間を設け、スタッフの疑問や不安に直接答えることが重要です。
個別面談:個別に相談したいスタッフとは、個別の面談の機会を設けましょう。
雇用条件の明確化:承継後の雇用条件(給与、勤務時間、休日など)を明確にし、書面で提示しましょう。
役割分担の明確化:承継後の役割分担を明確にし、スタッフの不安を解消しましょう。後継者との連携:後継者の先生には、承継前からスタッフと連携を図ってもらいましょう。チームワークを築くことで、承継後も円滑な診療体制を維持できます。
承継後のクリニック経営
承継は、新たなスタートです。先生が長年培ってきたクリニックが、次世代へと引き継がれ、新たな歴史を刻み始める時です。しかし、承継後の経営は、決して容易な道ではありません。成功への鍵は、円滑な移行と持続的な成長にあります。
まず、後継者へのサポート体制の構築が重要です。経営ノウハウの伝授、患者やスタッフとの関係構築、地域医療への貢献など、多岐にわたるサポートが必要です。定期的なミーティングや相談を通じて、後継者が安心して経営に取り組める環境を整えましょう。
しかし、注意すべき点もあります。引退された先生がいつまでもクリニックに関わり続けると、患者の先生離れが進まない可能性があります。また、スタッフがいつまでも前院長に人事相談をするなど、新院長にとって好ましくない状況も考えられます。
したがって、一定期間での身の引き方も考慮する必要があります。スムーズな世代交代のため、承継後の一定期間でクリニックから徐々に距離を置くことも検討しましょう。後継者が自身のリーダーシップを発揮し、新しいクリニックを築き上げるためには、適切な距離感と信頼関係が不可欠です。
おわりに
先生、ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます。クリニックの承継は、先生の人生、そして地域医療の未来を左右する、非常に重要な決断です。このコラムが、先生の決断を少しでも後押しできたなら、私たちにとってこれ以上の喜びはありません。
承継は、決して一人で抱え込む必要はありません。
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