こんにちは!ペンデル税理士法人医業経営支援部の親泊です。
2026年(令和8年)も6月に入りました。多くの医療機関では新年度の慌ただしさが
落ち着く一方で、想定外の退職による欠員補充や、さらなる専門医の確保に向けた
採用活動が継続していることと存じます。
医師や看護師の採用難が続く昨今、他院との差別化として「入社支度金
(サインアップボーナス)」を提示したり、遠方の優秀な人材を招聘するために
「転勤・引越費用」を負担したりするケースが増加傾向にあります。
しかし、良かれと思って支払ったこれらの金銭について、税務上の取扱いが問題となる
ケースも見られます。特に「源泉徴収が必要かどうか」の判断は、後日の調査での指摘を
避けるために極めて重要です。
(コラムの内容は公開時の法律等に基づいて作成しています)
雇用契約に関連する支度金は、原則として「給与所得」
最も多く見られる「採用お祝い金」や、入社を条件に支払われる「支度金」は、
雇用契約等に関連して支払われるものである限り、原則として所得税法上の
「給与所得」として取り扱われます。
- 課税の根拠
税務上、これらの支払いは「雇用契約の締結を条件とした労務の対価」または
「賞与に準ずるもの」と判断される可能性が高いためです。
- 源泉徴収の義務
支払う側(クリニックや医療法人)は、支給額から所得税を源泉徴収し、
納付する義務を負います。
- 判断のポイント
入社「前」に支払う場合であっても、実態として就職に伴うインセンティブであれば、
課税対象と判断される可能性があります。
「個人に支払う金銭」のうち、採用や勤務を条件とするものは、福利厚生や実費弁償に
該当しない限り、課税対象となるケースが多いため注意が必要です。
「実費弁償」として非課税扱いが検討できるケース
一方で、支給した金銭が一定の要件を満たす「実費弁償」であれば、非課税として
取り扱われる場合があります。
- 転勤・赴任費用の負担
遠方から勤務するために転居が必要な医師に対し、実際に支払った引越業者への代金や
赴任旅費を実費で補填する場合は、通常、非課税となります。 - 要件
その転居に「通常必要と認められる範囲内」の金額であることが必須です。
「通常必要と認められる範囲」と合理性の判断
ここで実務上の課題となるのが、「合理的な金額」の解釈です。
支度金に関して、法令で一律に明確な基準額が示されているわけではないため、
個別事情に応じた合理性が重要となります。
例えば、引越の実費が30万円であるのに対し、「支度金」として一律100万円を支給し、
差額の使途を問わないようなケースでは、実費を超える部分は「給与」とみなされ、
源泉徴収漏れを指摘される可能性があります。
近年では、高額な支度金を支給する際に「一定期間内に退職した場合は返還する」という
返還条項(ベスティング)を設けるケースもありますが、これがあるからといって
直ちに非課税になるわけではない点に留意が必要です。
適切な整理に向けた体制整備
税務上適切に整理し、かつ優秀な人材に手厚いサポートを行うためには、
以下の備えが有効です。
- 旅費規程・就業規則の整備
支給基準や対象範囲をあらかじめ明文化しておきます。
特に「実費を上限とする」旨の規定があることが望ましいです。
- 定額支給ではなく「実費精算」の徹底
概算払いで終わらせず、必ず業者発行の領収書を回収し、実際に発生した費用に基づき
精算する形式をとります。
- 社会保険との違いを認識する
税務上で給与とされる場合、社会保険上も賞与として扱われる可能性があります。
ただし、税務と社会保険では必ずしも取扱いが一致しない場合があるため、
両面からの確認が必要です。
多角的な視点での採用設計を
特にフリーランス(業務委託)の医師を招聘する場合などは、所得区分の判断が
さらに複雑になる場合があります。
せっかく確保したスタッフとの信頼関係を、後日の税務指摘で損なうことがないよう、
スキームの構築は慎重に行うべきです。
ペンデルグループでは、税務上のリスク管理はもちろん、社会保険・労働保険上の取扱い、
さらには規程の整備まで、税理士と社会保険労務士が連携してサポートしております。
(ペンデルへのお問い合せ はこちらから)
(参考)
国税庁:所得税基本通達(非課税とされる旅費の範囲)
国税庁:源泉徴収が必要な報酬・料金等(個人に対して支払うもの)