こんにちは!ペンデル税理士法人医業経営支援部の親泊です。
長年クリニックの発展に貢献してきた院長が退任する際、その功労に報いるため、役員退職金の支給を検討することがあります。適正な手続と金額で支給された役員退職金は、法人側では損金に算入でき、受け取る役員側では原則として退職所得として課税されます。
しかし、その金額が「不相当に高額」であると税務署に判断された場合、その高額な部分は法人税の計算上、損金に算入できません。法令には一律の損金算入限度額や計算式は定められていませんが、実務や裁判例では、その金額の相当性を判定する方法の一つとして「功績倍率法」が広く用いられています。今回は、この役員退職金の税務上の考え方と注意点を解説します。
(コラムの内容は公開時の法律等に基づいて作成しています)
相当性を検討する方法の一つ「功績倍率法」
功績倍率法は、役員退職金の金額の相当性を検討する上で一般的に用いられる計算方法です。ただし、これは法令で定められた公式ではなく、この計算結果まで必ず損金算入が認められるわけではありません。
【功績倍率法による算定額】 役員退職金の算定額 = 最終報酬月額 × 役員勤続年数 × 功績倍率
- 最終報酬月額
原則として退職直前の役員給与の月額です。退職直前に不自然な増減がある場合は、その金額が役員の功績を適切に反映しているかが問題になります。 - 役員勤続年数
原則として役員として法人の業務に従事した期間です。 - 功績倍率
役員の職責や功績を表す倍率で、同種・同規模法人の支給事例などを基にその相当性を検証します。
例えば、最終報酬月額150万円、役員勤続年数30年、功績倍率を仮に3.0倍として試算すると1億3,500万円となります。ただし、3.0倍という倍率は法令上の基準ではなく、この金額まで必ず損金算入が認められるわけではない点に注意が必要です。
税務上の判断基準と実質的な退職
税務当局は、法人税法施行令に基づき、役員の在職期間、退職の事情、同種・同規模法人の支給状況などを考慮して金額の相当性を判断します。
類似法人との比較
税務調査では、業種や事業規模などが類似する法人の支給事例を抽出し、その平均功績倍率などと比較されることがあります。納税者側が、類似法人のうち最も高い倍率を用いる「最高功績倍率法」を主張しても、その法人に特別な事情が認められなければ採用されない可能性があります。「創業者だから」といった主観的な説明だけでなく、客観的な資料で功績を示すことが重要です。
金額だけではない「実質的な退職」の判定
役員退職金では、金額の相当性だけでなく、「実質的に退職したといえるか」も重要な論点です。形式上は理事長を退任しても、引き続き経営上主要な地位を占めていると判断されれば、退職給与として認められない可能性があります。例えば、常勤から非常勤への変更や、報酬のおおむね50%以上の減少などが一つの目安とされますが、あくまで実態に即して総合的に判断されます。
死亡退職金と生命保険の注意点
役員が在職中に亡くなり、法人から遺族へ死亡退職金を支給することもあります。その支払原資として法人契約の生命保険を活用するケースもありますが、法人が受け取る保険金額と、税務上相当と認められる死亡退職金額は必ずしも一致しません。
死亡退職金を支給する際も、保険金額をそのまま支給額とするのではなく、在職期間、功績、類似法人の支給状況などを踏まえ、功績倍率法等によって金額の相当性を検証することが重要です。
また、死亡後3年以内に支給が確定した死亡退職金は、遺族側では原則として「みなし相続財産」として相続税の対象になります。相続人が取得した場合には「500万円×法定相続人の数」の非課税限度額がありますが、相続人以外が受け取る場合には適用されません。
まとめ:出口戦略の要は周到な準備にあり
役員退職金は、金額の相当性、実質的な退職の判定、適切な決議手続、損金算入時期など、税務上の論点が多岐にわたります。
- 定款・規程と適切な決議
定款に役員退職金の定めがない場合は、株式会社では株主総会、医療法人では定款や内部規程に従った社員総会等の決議により、支給額や算定方法を適切に決定し、議事録を保存します。 - 専門家との連携
退職金の額を決定する際は、必ず顧問税理士と相談し、功績倍率法によるシミュレーションや、類似法人の支給状況などを踏まえた客観的な検証を行ってください。役員退職金の損金算入時期は、原則として、社員総会等の決議により支給額が具体的に確定した日の属する事業年度です。出口戦略を成功させるためにも、早い段階から計画的に準備を進めることが肝要です。(2026年8月時点の法令に基づきます)

(参考)
法人税法第34条第2項(役員給与の損金不算入)
法人税法施行令第70条(過大な役員給与の額)
法人税基本通達9-2-27の3(功績倍率法)