こんにちは!ペンデル税理士法人 医業経営支援部 親泊です。
今回は、クリニックの事業承継において非常に重要な『譲渡額(営業権、のれん代)』について
詳しくご説明いたします。
クリニック譲渡を検討される先生が最初に抱かれる疑問の一つに
『一体いくらで譲渡すれば良いのか?』という点があります。
これまで築き上げてこられた患者さんとの信頼関係や
クリニックの成長に貢献された来た先生にとって、譲渡額の設定は悩ましい問題です。
そこで、個人診療所と医療法人の場合に分けて、譲渡額の算定方法例をお伝えいたします。
(コラムの内容は公開時の法律等に基づいて作成しています)

テナント(賃貸)開業されている、個人診療所の場合
個人診療所において、医療施設の譲渡金額は
譲渡する資産の時価と、営業権(のれん代)の合計で算出されます。
譲渡資産とは、医院内で使用されている内装、ソファーなどの家具
電子カルテやレントゲン装置といった医療機器などを指します。
税理士に確定申告を依頼されている先生は
確定申告書に医院の固定資産一覧が記載されていますので、一度ご確認ください。
一般的に、資産の価値は購入時が最も高く、年月が経過するにつれて減価していきます。
この減価の割合は、税法で定められた期間と方法に基づいて計算されます。
税理士が作成した資料をご参照いただければ、より正確な時価を把握できるでしょう。
営業権(のれん代)は、医院の譲渡に際して発生する付加価値であり
医院の収益性そのものを表すともいえます。
具体的には、地域の知名度、立地の良さ、患者様との良好な関係など
有形資産には含まれない無形資産がこれに該当します。
これらの無形資産は、医院の価値を大きく左右する重要な要素です。
しかし、無形資産であるため、その評価は容易ではありません。
個人医院、法人医院を問わず、営業権の評価は重要な課題です。
以下に、代表的な評価方法をいくつかご紹介します。
年買法(年倍法)とは
税引前または税引後の営業利益の1年分から3年分、場合によっては5年分を営業権とみなす手法です。
この方法は、比較的簡便でバランスの取れた評価方法として知られていますが、
明確な基準が定まっているわけではなく、売却者と購入者の双方で
納得のいく数値を設定することが重要です。
超過収益還元法とは
より詳細な評価を行うための手法です。
まず、一般的な診療所開業に必要な費用と、一般的な収益を算出します。
次に、当該クリニックの収益からこれらの数値を差し引くことで、超過収益を算出します。
この超過収益が将来にわたってどの程度継続すると考えられるかによって
営業権の評価額が決定されます。
この方法は、大企業のM&Aなど、より厳密な評価が求められる場合に用いられます。
DCF法(ディスカウント・キャッシュフロー法)とは
将来の一定期間におけるキャッシュフローを予測し、これを現在の価値に割り引くことで
企業価値を評価する方法です。
キャッシュフローの計算方法や割引率の設定など、専門的な知識が必要となるため
大企業のM&Aなど、高度な評価手法が求められる場合に用いられます。
類似企業比較法とは
当該クリニックと業態や規模が類似する他のクリニックの財務データを比較し
相対的な評価を行う方法です。
しかし、個人診療所の場合、財務データが公表されていないことが多く
また、医療法人の場合も、都道府県への事業報告が閲覧できる程度であるため
比較対象となるデータが限られていることが一般的です。
実査査定法とは
実際にクリニックを訪問し、設備、立地、患者数、スタッフの質など
多角的な視点から評価を行う方法です。
この方法では、数値だけでは捉えきれない、クリニックの具体的な状況を把握することが
可能であり、購入者にとってはより確実な判断材料となります。
自己所有の不動産で開業している、個人診療所の場合
自己所有不動産がある場合、譲渡資産(売却)に含めるかどうか検討が必要です。
売却せずに、賃貸で次の先生に借りていただくという交渉も可能です。
土地・建物と両方所有している場合は
片方を売却、もう片方を賃貸といった交渉を行うこともありますし
承継当初は賃貸としてお貸しし、「10年後」など決まった期間後に
売却する約束をすることも可能です。
注意点は
不動産売却を含めると総譲渡額が上がってしまい、承継を意思決定する際のハードルに
なることがあるため、買い手との交渉を密にするようにしていただければと思います。
また、営業権についても多少影響が出ます。
自己所有の場合、営業利益の計算で賃料が含まれていません。
引継ぎ後に賃貸で診療を継続する場合、同じ患者さんが来院して同じ診療をされたとしても、
賃料分、営業利益が減ることになります。
そのことも加味して
不動産を賃貸にするのであれば、営業権は 〇円 賃料は △円
売買で進めるのであれば、営業権は ■円と
いくつかのパターンを想定し、候補者を探すとスムーズに進む場合があります。
まとめ
事業承継を円滑に進めるために、譲渡額を設定する必要がありますが
「売り手・買い手ともに納得できる設定」にすることが大切です。
高すぎる、低すぎる金額にならないように、買い手側に設定の根拠を
しっかりお伝えできるように検討することが成功の鍵です。
もし、事業承継でお困りであれば専門家のサポートを受けるのも一つの手です。
ペンデル税理士法人 医業経営支援部では、クリニックの事業承継に関するサポートを
行っておりますので、お気軽にご相談ください。
お問い合わせは、お問い合せフォームからどうぞ。

クリニックの営業権の評価では、年買法が最もよく使われています。
これは、「譲渡資産の時価」に「営業権」を加えて「譲渡価格」とする
シンプルで分かりやすい方法だからです。
「同じような診療をすれば、同じような収入になる」という考えのもと
過去の一定期間の営業利益を基に営業権の金額を算出します。
しかし、この営業利益の内容をしっかりと確認することが重要です。例えば、
診療に関係のない経費
診療に使っていない自動車関係の経費や、クリニック外来対応していない親族の給与など
院長の働き方
院長の勤務日数を減らすためのアルバイト医師の人件費など
これらの経費が含まれていると
実際の営業利益と乖離が生じ、トラブルの原因となる可能性があります。
譲渡価格を決める際には、営業利益の内容を分析し正確な評価を行い
売り手と買い手双方にとって納得のいく様に進めましょう。