こんにちは!ペンデル税理士法人 医業経営支援部 親泊です。
前回は、個人診療所の譲渡額について解説いたしました。
今回は、医療法人の譲渡額に焦点を当ててご説明いたします。
医療法人は、その設立形態によって、医療法人財団と医療法人社団に大別されます。
さらに、医療法人社団は、「持分あり」と「持分なし」に分類されますが
令和6年3月31日時点の統計では、医療法人社団の圧倒的多数(99.3%以上)が「持分あり」の
形態であるため、本稿では主に医療法人社団を対象として解説を進めてまいります。
(コラムの内容は公開時の法律等に基づいて作成しています)

「持分」とは何でしょうか
(出資)持分とは、医療法人などの法人に対して、お金や財産を出資した方(出資者)が持つ
その法人の財産に対する権利のことを指します。
より具体的に説明すると、出資者は、出資した金額に応じて
その法人が持つ建物、医療機器、そして将来得られる利益など、あらゆる財産に対して
一定の割合で権利を持つことになります。
いわば、その法人の「持ち分」のようなものです。
財産に対する権利、と書いたように出資者は、出資額に応じて法人の財産に対する権利を持ちます。
これは、法人が解散した場合に残った財産の分配を受ける権利や
場合によっては経営に関わる権利などが含まれます。
また「株式と似ている」と書いたように、定款で制限されていない限り、原則として譲渡が可能です。
平成19年の医療法改正により、新規に持分ありの医療法人社団を設立することはできなくなりましが、
既に設立されている持分ありの医療法人については、当分の間、存続が認められています。
(令和6年3月31日現在、36,393法人)
平成19年以降は、持分なしの医療法人へ
医療法の改正により、医療法人の新規設立で、出資持分による財産権の取得は
認められなくなりました(持分あり医療法人)。
その代替として、基金拠出型医療法人が主流となっています。
基金拠出型医療法人では、出資に代えて基金を拠出する制度が採用されていますので
拠出者は、基金に対して出資持分のような権利を有していません。
基金は法人の財産に属し、拠出者への返還は、原則として拠出額または
その価額に相当する範囲内で行われます。
(令和6年3月31日現在の持分なし医療法人は22,115法人)
譲渡の方法
医療法人の種類についてお話しいたしました。
続いて、医療法人の譲渡方法についてご説明いたします。
医療法人の譲渡方法は、大きく分けて以下の5つが考えられます。
1. 持分売買による譲渡
持分のある医療法人において、法人の財産権すべてを移転する最も一般的な方法です。
医療法人全体の社員、理事長、監事などを一括して変更し
医療法人に関する契約もすべて引き継ぎます。
ただし、代表者保証など、個別の契約によっては、変更手続きが必要となる場合があります。
2. 社員・役員の変更
持分のない医療法人で用いられる方法で
社員や役員を変更することで、実質的に法人の経営権を移転します。
設立時に拠出した基金は、原則として返還請求権があります。
譲渡手続きの際に、基金の取り扱いについて十分に注意する必要があります。
3. 事業譲渡
医療法人全体ではなく、クリニックなどの事業部分のみを譲渡する方法です。
クリニックの廃止手続きと、新たなクリニックの開設手続きが必要となります。
医療法人の分院の場合や、理事長が引き続き医療法人を利用する場合などに適用されます。
4. 合併
5. 法人格のみの譲渡
譲渡額の設定方法
個人診療所と同様に、譲渡資産の時価に営業権を加えた金額で評価されることが多いですが
医療法人の場合、注意すべき点がいくつかあります。
譲渡資産の時価評価
譲渡資産には、建物、医療機器など有形固定資産だけでなく
退職金積立金、車両、福利厚生のためのリゾート会員権など
無形固定資産やその他の資産も含まれる場合があります。
これらの資産の価値を適切に評価することが重要です。
営業権の評価
医療法人の営業権は、個人診療所と同様、その医療法人が将来得られる収益力に基づいて評価されます。
しかし、医療法人では、診療に直接関与しない役員への報酬が
費用として計上されているケースが多く見られます。
このため、営業権を評価する際には、これらの費用を適切に調整し
実際の収益力を正確に把握する必要があります。
譲渡額の支払タイミング
持分あり医療法人の場合
持分売買金額は持分の移動日(承継日かその前日)、営業権は持分売買に上乗せするか
本来の退職金に上乗せして支払うか譲渡契約で定めます。
持分なし医療法人の場合
売買する持分がありませんので、本来の退職金に上乗せしてお支払いするなどの方法が
あります。
まとめ
医療法人の譲渡は、個人診療所と異なり、出資持分や役員退職金といった
特有の要素を考慮する必要があります。
譲渡金額の設定はもちろん、それらの要素をどのように活用し、円滑な譲渡を実現するかを
慎重に検討することが重要です。
契約や届出についても、個人診療所とは異なる手続きが必要となります。
医療法人の場合、引き継ぐ契約や変更届など、より複雑な手続きが発生するため
漏れなく確実に進めることが求められます。
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