こんにちは!ペンデル税理士法人医業経営支援部の親泊です。
クリニック経営において、「スタッフの急な退職」は運営に深刻な影響を与えます。
特に最近では、「退職代行サービス」を通じて
退職の意思が伝えられるケースも増えています。
退職は労働者の権利ですが、突然の連絡であることから、
現場としては対応に困るのも事実です。
先日、あるクリニックの院長から、こんなご相談を受けました。
【ご相談】
SNSで退職代行の話を聞いたけど、このクリニックでも代行サービスを使われたら嫌だな。
いやね、スタッフとはコミュニケーション取れているけどね。
あくまで、念のために、退職代行サービスを使われないように、
何か注意しておくことはあるのかな。
万が一使われると、急な退職でシフトが埋まらなくなるから、念のためにね…
これは多くの経営者が抱える共通の悩みです。
「退職代行」は、経営者にとっては「寝耳に水」であり、ショックな出来事です。
しかし、この問題を「使われないようにどう防ぐか」という視点だけで捉えていると、
本質を見誤るかもしれません。
重要なのは、「スタッフが退職代行という手段を選ぶ必要がなくなる」ような、
健全な職場環境をどう作るか、という視点です。
なぜ退職代行サービスが利用されるのか、
そして「退職代行が不要になる」組織づくりのために何をすべきか、専門家の視点から解説します。
(コラムの内容は公開時の法律等に基づいて作成しています)
増加する「退職代行」その背景と種類
退職代行サービスが普及する背景には、若い世代の労働観の変化や、
「退職を切り出す精神的負担」を避けたいという心理があります。
特に「上司から引き留められそう」「職場で退職を切り出しにくい」といった、
対話不足や人間関係の問題が根本にあるケースが目立ちます。
経営者として知っておくべきは、退職代行には主に3つの運営形態があり、
対応方法が異なる点です。
- 民間事業者運営
比較的安価で、「退職意思の伝達」に特化しています。法的な交渉権はないため、
有給休暇の取得日や未払い賃金の請求といった「交渉」には応じられません。
- 労働組合運営
労働組合として運営されており、「団体交渉権」を持っています。
これが最も注意すべき形態です。
本人に代わって、
未払い残業代の請求や有給休暇の取得交渉などを合法的に行うことができます。
日頃の勤怠管理や給与計算が杜撰だと、
これがきっかけで深刻な労務トラブルに発展するリスクがあります。
- 弁護士運営
弁護士が運営するサービスでは、
退職手続きや法的な交渉について適切な代理を行うことができます。
通常の退職代行では行わないような専門的対応も可能なため、
労働者から見た安心感は高い傾向があります。
退職代行を使う必要がなくなる「8つの予防策」
これらは「予防策」であると同時に、
スタッフが安心して長く働ける環境を作るための「本質的な組織改善策」です。
① 日常のコミュニケーション改善
退職代行が選ばれる理由のひとつに、
『直接話す心理的ハードルが高い』『強く引き止められそうで不安』といった
コミュニケーションに関する問題があります。
まずは、月1回・5〜10分程度の1on1ミーティングや、
朝礼後の「最近どう?」という気軽な声かけから始めましょう。
ミスしたスタッフにも感情的にならず、冷静に対応する姿勢が重要です。
こうした「小さな相談」ができる空気こそが、退職代行が不要になる組織の基盤です。
② 相談しやすい窓口の設定
「院長には直接言いづらい」という内容は必ず存在します。
事務長や主任など、院長以外の相談役を正式に任命し、周知しましょう。
また、月1回程度の匿名アンケート(Googleフォーム等)で
意見箱を設置するのも効果的です。
これは不満の「ガス抜き」ではなく、
組織を改善するための貴重な「芽」を拾い上げる仕組みです。
(※2022年4月以降、中小企業でもパワハラ防止措置が義務化されており、
その一環として相談窓口の整備や周知が求められています。)
③ ルールや業務負担の明確化・適正化
「あの人ばかり楽をしている」「自分だけ業務負担が大きい」といった
不公平感や過重感は、直接的な不満を伝えることを諦めさせ、
退職代行に向かわせる強い動機となります。
業務フローを見直し、急な残業の原因を改善する。
「これは誰の仕事?」という曖昧さをなくす役割分担表の作成や、
ハードシフトの偏りを調整する。
こうした「業務の見える化」が、スタッフの納得感を高めます。
④ 人事制度と勤怠ルールの整備
有給休暇が取得しづらい、急な休みが取りにくいといった雰囲気は、
スタッフに「我慢」を強います。
有給休暇の取得状況を確認し、計画的な消化を促す
(年10日以上の有給が付与されるスタッフに対して、年5日の取得義務は法的責務です)。
取得規定を策定・周知する。
基本的なルールが整備され、適切に運用されていれば、
スタッフは「言いづらさ」を感じることなく、正当な権利を行使できます。
⑤ 評価・給与の説明責任を果たす
給与は最大の関心事ですが、
不満の本質は「金額」そのものより「説明の欠如」にあることも多いのです。
最低でも年1回は、評価と給与(昇給)について説明する時間を設けましょう。
「どうすれば給与が上がるのか」という基準を言語化し、
昇給が難しい場合でもその理由を丁寧に伝える。
その「説明責任」が信頼関係を築きます。
⑥ 退職面談を“安全に”できる環境作り
「過去に退職を申し出た人が怒られていた」「強く引き止められそうで怖い」——
これが、スタッフが退職代行に頼る最大の理由です。
否定的な言動や強い引き止めは、
スタッフに大きな心理的負担を与えてしまうため避けるべきです。
一方で、引き継ぎや退職理由の確認など、業務上必要なコミュニケーションは
冷静に進めることが大切です。
『申し出ても大丈夫』と感じられる雰囲気づくりが円満な退職につながります。
⑦ 入職時の“期待値合わせ”を丁寧にしておく
「入職前に聞いていた話と違う」というギャップは、信頼関係を根本から崩します。
採用面談の段階で、業務内容、忙しさ、患者層、シフト体制などを正確に伝え、
「思ったのと違う」を極力減らしましょう。
これは、労働条件通知書(雇用契約書)で勤務条件を明示する義務とも直結します。
⑧ 人間関係トラブルの早期ケア
結局のところ、「特定の誰かと話したくないから退職代行を使う」というケースが
根本には多く存在します。
新人教育係の負担が偏らないよう調整する、問題行動があるスタッフには
早期に注意・指導する、スタッフ間の小さな対立を放置せず介入する。
人間関係のケアは院長の重要なマネジメント業務です。
良好な人間関係こそが、退職代行を不要にする最大の資産です。
まとめ:「対話」と「ルール」が健全な組織を作る
「退職代行」という手段が選ばれる背景には、必ず組織側の何らかの課題が隠れています。
これら8つの施策は、退職代行の「予防」であると同時に、
スタッフの満足度と定着率を高め、
クリニックの経営基盤そのものを強化する「攻めの労務管理」です。
労務管理には、
日々の勤怠や給与、法令対応など専門的な判断が求められる場面も多くあります。
院長おひとりで抱え込まず、必要に応じて専門家を活用することで、
より安心して組織運営に専念できます。
スタッフが安心して長く働ける職場環境づくり、万が一の労務トラブルに備えるためにも、
ぜひ一度、ペンデルグループにご相談ください。
ペンデルグループでは、
税務顧問だけでなく、人事労務に関するサポートや、
将来のトラブル防止を見据えたクリニックの開業支援も行っております。
お気軽にご相談ください。
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