こんにちは!ペンデル税理士法人 医業経営支援部 親泊です。
2025年4月1日から段階的に施行される『育児・介護休業法』の改正は、
クリニック運営にとって避けて通れない重要なテーマになりそうです。
特に医療現場では、勤務医やスタッフの業務負担が大きく、労働環境の変化が
診療の質や経営の安定性に直結することが多いと思います。
今回の改正は、職員の仕事と家庭の両立をサポートし、離職防止にもつながる
ポジティブな側面がありますが、適切な準備を怠ると経営に負担をもたらす可能性もあります。
本コラムで、改正のポイントと、診療所経営における影響、対応方法についてお話いたします。
(コラムの内容は公開時の法律等に基づいて作成しています)

改正の主なポイント
今回の改正では、育児・介護を支援する制度が拡充され、より柔軟な働き方が可能となることが特徴です。
診療所経営に影響を与えそうなポイントを整理すると、以下のようになります。
まず、「子の看護等休暇」の範囲が広がり、これまで小学校就学前までだった対象が
「小学校3年生修了まで」となります。
また、休暇取得の理由に「感染症に伴う学級閉鎖」「入園・入学式、卒園式の出席」が追加され、
家庭の事情により従業員が休暇を取得するケースが増加する可能性があります。
診療所のような少人数体制の職場では、急な休暇取得が業務に与える影響が大きいため、
シフト管理の見直しが求められるでしょう。
さらに、「所定外労働の制限(残業免除)」の対象が「3歳未満」から「小学校就学前」まで拡大されます。
これにより、小さな子どもを持つスタッフが残業を免除されるケースが増え、
夜間診療や急患対応の体制に影響を及ぼす可能性が出てきます。
また、介護支援の面では「介護休暇」の取得要件が緩和され、労使協定を結んでいる場合でも
「継続雇用期間6か月未満の労働者」を除外することができなくなりました。
つまり、採用したばかりのスタッフでも介護休暇を申請できるようになり、
スタッフ確保と業務調整の課題がより大きくなります。
診療所にとってのメリット
一見すると負担が増えるように思える改正ですが、実は診療所にとってメリットもあります。
まず、従業員のワークライフバランスが向上することで、職場への定着率が高まり、
離職防止につながります。
医療業界は人材不足が深刻化しており、新しいスタッフを確保するよりも、
既存の優秀なスタッフを長く働ける環境にするほうが、結果的に経営的メリットが大きいでしょう。
また、今回の改正で「育児のためのテレワーク導入」が努力義務化されます。
医療機関では直接患者と接する業務が多いため、すべての業務をテレワークに移行することは
難しいですが、事務業務の一部を在宅勤務で対応することで、育児中のスタッフの継続勤務を
支援することが可能です。
たとえば、以下のような業務であればテレワーク化しやすいでしょう。
レセプトチェック・請求業務
診療報酬請求の精度を向上させるためには、レセプトチェックの工程が欠かせません。
この作業は、クラウドタイプの電子カルテを導入していれば、自宅からでもアクセスし、
データを確認することができます。
また、レセプトを印刷してチェックすれば、クラウドシステムを使用していない診療所でも
テレワークでの対応が可能になります。
レセプトの入力ミスや不備を事前に発見し、修正を行うことは、
診療報酬の適正な請求につながります。
特に月末月初のレセプト業務が集中する時期に、在宅で業務ができれば、診療所内の
事務作業の負担を軽減しつつ、業務の効率化が期待できます。
さらに、チェック作業を担当するスタッフが育児や介護で出勤が難しい場合でも、
在宅で業務に関与できるため、貴重な人材を有効に活用できるでしょう。
このように、一部の事務業務をテレワークで対応できる環境を整えることで、
診療所は人材の多様な働き方に対応しつつ、スタッフの定着率を向上させることができます。
制度の施行をきっかけにして、経営にプラスとなる施策として取り入れることが重要です。
診療所がとるべき対応方法
改正への対応は、単に制度を導入するだけでは不十分であり、
実際に円滑に運用できる環境整備が求められます。
具体的に、以下のような対策が考えられます。
まず、シフト管理の柔軟性を高めることが重要です。
例えば、スタッフ間で業務を分担しやすくするために、事務作業のマニュアル化や
電子カルテの活用を進めると、急な休暇取得があっても対応しやすくなります。
また、診療所の運営スタイルに応じて、短時間勤務制度の導入やパート職員の採用を
増やすことで、人員不足を補うことも選択肢の一つでしょう。
次に、労務管理の見直しも不可欠です。
今回の改正では、介護休業や育児休業の取得をスムーズにするため、
事業主に「個別周知・意向確認」が義務づけられます。
つまり、対象となる従業員に対し、制度の内容を説明し、意向を確認するプロセスが
必要になります。この手続きを怠ると、法令違反となる可能性があるため、
社労士や税理士と連携しながら適切な対応を進めることが求められます。
また、経営者自身が「制度の活用が職場の成長につながる」という視点を持つことも大切です。
たとえば、育児休業や介護休業を取得したスタッフが復帰しやすい環境を整えれば、
長期的に安定した人員確保につながります。
そのためにも、職場内での情報共有を強化し、スタッフが安心して制度を活用できる環境を
作ることが、結果的に診療所の経営安定につながるでしょう。

クリニックの人手不足とは、結局のところ「経験を積んだスタッフが辞めてしまうこと」が
大きな原因です。一度辞められると、新しいスタッフを採用するだけでなく、
一から(場合によってはゼロから)育てる必要があり、独り立ちするまでに
時間もコストもかかります。
求人活動自体にも時間が必要であり、せっかく育った頃にまた辞められる、なんて悪循環も…。
しかし、今回の法改正をうまく活用すれば、勤務時間の短縮やリモートワークを取り入れることで、
育児や介護で退職を考えていた熟練スタッフが残れる可能性がぐっと高まります。
経験豊富なスタッフが続けてくれるのは、院長にとっても経営的な非常に大きなメリットです!
クリニックの悩みごとの半分以上は人事関係ともいわれています。
時間をかけて育てたスタッフにできるだけ長く勤務してもらう。
そのような環境づくりが大切になってきたのではないでしょうか。
組織づくりや、人事労務、そのほかクリニックでのお困りごとについて、
ペンデル税理士法人 医業経営支援部でサポートを行っております。お気軽にご相談ください。