こんにちは!ペンデル税理士法人医業経営支援部です。
2025年度の最低賃金改定が秋口にかけて順次施行され、今年も大幅な引き上げとなりました。
全国加重平均額は昨年度から66円増の1,121円。
すでに時給1,000円台が当たり前となり、
医療機関でも看護助手や医療事務、清掃スタッフなどパート層の賃金設定に直結する状況です。
さらに今年は、最低賃金の動きと並行して
「社会保険の適用拡大」という大きな制度変更も進んでいます。
クリニックでは両方が同じタイミングで影響してくるため、
経営・労務管理の観点から早めの見直しが求められます。
本記事では、その2つのポイントと年末に向けて準備しておきたい対応策を解説します。
(コラムの内容は公開時の法律等に基づいて作成しています)

最低賃金改定の概要と計算の注意点
今回の改定では、都道府県ごとの引き上げ額が63〜82円と、過去最高水準となりました。
まず確認したいのは、現在の時給設定が新しい地域別最低賃金を下回っていないかという点です。
万が一下回っていた場合、
未払い分の支給に加え、改善が行われなければ50万円以下の罰金を科される可能性があります。
注意しておきたいのは、「最低賃金の対象となる賃金」と「除外される賃金」の区別です。
対象:基本給、職務手当など
除外:精皆勤手当、通勤手当、家族手当、時間外割増 など
特に医療現場でよくある「精皆勤手当を含めて最低賃金を上回っている」という判断は
誤解が生じやすいポイントです。
12月に向けて、給与規程と実際の支給方法にずれがないか、
改めてチェックすることをおすすめします。
「年収106万円の壁」撤廃によるダブルパンチ
最低賃金の上昇と同時に意識すべきなのが、
2025年6月に成立した年金制度改正法による「社会保険の適用拡大」です。
短時間労働者の厚生年金加入要件である
- 賃金要件(月額8.8万円以上)
- 企業規模要件(従業員51人以上)
が段階的に撤廃されることが決まりました。
これにより、これまで扶養内勤務を前提にシフトを組んでいたスタッフが、
意図せず社会保険加入の対象となる場面が増えます。
最低賃金の上昇で月収が上がる → 結果として「扶養から外れる」ケースが
年末にかけて表面化しやすくなるため、
クリニックとしては社会保険料の事業主負担を見越した経営計画の修正と、
スタッフへの丁寧な説明が欠かせません。
医療機関がとるべき対策
賃上げそのものは避けられない流れですが、基本給だけを上げてしまうと、
新入職員とベテランスタッフの賃金差が縮まり、
モチベーション低下(いわゆる逆転現象)を招く恐れがあります。
そこで、以下のように「給与体系」と「働き方」の両面から整理を進めることが重要です。
- 最低賃金の引き上げ幅に合わせた給与テーブル全体の再設計
- 業務改善助成金などの支援策を踏まえた賃上げ原資の確保
- スタッフの働き方(扶養内 or 社保加入)の再ヒアリング
これらは年末調整のタイミングと重なるため、
11〜12月にかけて早めに動くことで、年明けの混乱を最小限にできます。
おわりに
人件費の上昇は確かに大きな経営課題ですが、制度変更の流れを捉えて早めに準備することで、
結果として優秀な人材の定着や採用力の向上につながります。
給与改定のシミュレーションや助成金の活用など、
クリニックの状況に合わせた具体策については、
医療経営に精通したペンデルグループへお気軽にご相談ください。
(参考)
厚生労働省:地域別最低賃金の全国一覧