こんにちは!ペンデル税理士法人医業経営支援部の親泊です。
原則として、会社の「役員」は労働基準法上の労働者ではないため、
労災保険の対象外とされています。
しかし先日、建設会社の専務取締役の過労死が労災認定されたという報道があり、
注目を集めました。
この判断の鍵となったのが、役員の「労働者性」です。
実はこの考え方は、医療法人の「理事」にも当てはまる可能性があり、
決して他人事ではありません。
本件を基に、役員の労災認定と労働者性の判断基準について解説します。
(コラムの内容は公開時の法律等に基づいて作成しています)

なぜ役員の労災認定は難しいのか?
労災保険は、
業務上の事由による労働者の負傷、疾病、死亡などに対して給付を行う制度です。
会社の取締役や医療法人の理事といった役員は、会社や法人から経営を委任された
「使用者」側の立場であり、指揮命令を受けて働く「労働者」ではないと解釈されるため、
原則として労災保険の対象にはなりません。
(※中小事業主や法人役員も、特別加入制度を利用すれば労災保険の対象となる場合が
あります。医療法人の理事も同様の検討が必要です。)
事例のポイント:「労働者性」が認められた理由
今回の事例で、亡くなった専務取締役が労働者であると判断され、
労災認定に至ったポイントは以下の通りです。
- 実態としての勤務: 「出勤簿」により、過労死リスクが指摘される時間外労働の目安(目安として月80時間以上)を超える勤務が確認された。
- 業務執行権の有無: 工事の受注や人員配置といった経営に関する重要事項の決定権(業務執行権)は代表取締役が持っており、専務にはなかった。
- 指揮命令関係: 実質的には、代表取締役の指揮命令のもとで現場監督業務に従事しており、他の従業員と同様の働き方をしていた。
このように、役職名(肩書)だけでなく、業務の実態を見て「労働者」としての
側面が強いと判断されれば、役員であっても労災保険の給付対象となり得るのです。
医療法人の理事における「労働者性」
この判断基準は、医療法人の理事にも応用できます。例えば、
- 理事長など上位者の指揮監督のもとで、診療業務に専念している。
- 法人の経営方針の決定に関与していない。
- 勤務時間や場所が管理され、報酬が職務内容や勤務実態に応じて支払われている。
といったケースでは、
理事という立場であっても「労働者性」が認められる可能性があります。
もし労災保険に未加入だったら?
今回の事例に限らず、もし会社がある役員に対して、
労災保険の特別加入をしていなかった場合どうなるでしょうか。
労働者性が認められた場合、たとえ保険料を納めていなくても労災給付は行われます。
しかし、その場合、国は、労災保険給付分について、事業主に求償する場合があります。
役員だから労災は関係ない、と安易に判断するのは非常に危険です。