こんにちは!ペンデル税理士法人医業経営支援部の親泊です。
新緑が日を増すごとに色濃くなり、初夏の気配を感じる5月下旬を迎えました。
現在、日本の金融実務において一つの大きな転換点となる制度の本格運用に向けた整備が
進められています。それが、「企業価値担保権」の施行です。
これまで、クリニックが分院展開や大規模な医療機器導入のために多額の資金を
借り入れる際、不動産担保や理事長の個人保証が大きな役割を果たしてきました。
しかし、この新制度の登場により、土地や建物といった「目に見える資産」への依存度を
下げ、財務内容や事業計画を含む「事業の価値」を重視した融資判断が行われやすくなる
可能性が出てきました。
(コラムの内容は公開時の法律等に基づいて作成しています)
「企業価値担保権」とは何か?
企業価値担保権は、2024年に成立した「事業性融資の推進等に関する法律」に基づき
創設された担保制度です。
最大の特徴は、特定の不動産ではなく、将来的な収益力や事業継続性を支える
無形資産を含めた「事業全体を一体として担保にする」という考え方にあります。
従来の融資では、賃貸物件での開業クリニックは担保評価の面で
苦慮するケースもありましたが、今後はそのクリニックが地域医療において
果たしている役割や、将来の成長性といった「事業の実力」が、
より正当に評価の土台に載ることが期待されています。
医療機関と本制度の「親和性」
まだ制度活用の実績蓄積はこれからという段階ですが、
医療経営は比較的この制度の考え方と親和性が高いと考えられています。
- 継続性の高い収益構造
診療報酬制度に基づく医療機関は、他の業種に比べて急激な景気変動を受けにくく、
事業価値の算定において一定の信頼を得やすい特性があります。
- 独自の業務ノウハウ
医師の技術やスタッフの習熟、効率的な医療提供体制といった「目に見えない資産」は、
クリニックの存続を支える重要な価値です。
- 多様化する開業スタイル
テナント開業やモール内開業など、不動産を所有しないスタイルが増える中で、
事業性そのものを評価する仕組みは、意欲ある院長先生にとって
追い風となる可能性があります。
金融機関との「対話」がより重要に
新しい担保権の設定にあたり、「経営への過度な介入」を懸念される声もありますが、
金融庁のガイドライン等では、金融機関は医療機関側の自主性を尊重し、
過度な経営介入を避けるべきとされています。
基本的な経営判断はあくまで医療機関側に委ねられる一方、
本制度下では金融機関との定期的・継続的な対話がこれまで以上に重要になります。
財務状況だけでなく、事業の将来性を共有し合うことで、万が一の際にも
迅速な支援が受けられるような「伴走型」の関係構築が理想とされています。
「事業の見える化」への備え
融資判断の幅が広がる可能性がある一方で、院長先生には自院の強みを
客観的に示す準備が求められます。
- 財務内容の透明化: 月次決算を徹底し、正確な数字をタイムリーに把握する。
- 精緻な事業計画: 根拠のある将来予測を立て、成長のシナリオを明文化する。
- 強みの言語化: 医療連携の構築状況や、自院の強み(専門性)を数値や実績で整理する。
従来以上に「事業性」や「経営計画」が重視される流れの中で、これらを「見える化」
しておくことは、融資だけでなく経営の質そのものを高めることにも繋がります。
おわりに:実務の蓄積を注視しつつ
企業価値担保権は、医療経営が「資産の有無」だけでなく、より深く「経営の実態」で
評価されるきっかけとなる制度です。
※現時点では、金融機関ごとに運用方針や審査スタンスが異なる可能性があります。
※医療法人の形態や出資持分の有無によって、金融機関側の評価ポイントが異なる場合があります。
※制度開始直後のため、今後の実務運用や金融機関対応の蓄積にも注目が必要です。
ペンデル税理士法人では、医療法人の皆様が適切なタイミングで
最適な資金調達を選択できるよう、最新の金融動向を注視しながら
事業計画策定や財務体質の強化を支援しております。
(ペンデルへのお問い合せ はこちらから)
(参考)
金融庁:企業価値担保権(旧:事業成長担保権)について
金融庁:事業性融資の推進等に関する法律等ガイドライン(案)(PDF)