こんにちは!ペンデル税理士法人医業経営支援部の親泊です。
認定医療法人制度の認定期限は、2029年(令和11年)12月31日まで延長されています。この制度は、「持分あり医療法人」が持分なし医療法人へ移行する際、一定の要件のもとで相続税・贈与税の特例などを利用できる仕組みです。
ただし、2029年末は「移行計画の認定を受ける期限」です。認定後の移行期限や、相続税の申告期限とは区別する必要があります。
本コラムでは、出資持分に関する課題、制度のメリットと注意点、認定要件、移行までの進め方を整理します。
(コラムの内容は公開時の法律等に基づいて作成しています)
認定医療法人制度とは?2029年末の期限の意味
認定医療法人制度は、持分なし医療法人への移行計画について、厚生労働大臣の認定を受ける制度です。 2025年12月12日公布の医療法等の改正により、認定期限が2026年末から2029年末へ延長されました。利用を検討する際は、次の期限を押さえておきましょう。
- 移行計画の認定: 2029年12月31日までに認定を受ける
- 持分なし医療法人への移行: 認定日から5年以内の範囲で、認定移行計画に定めた期限までに完了する
- 相続後に相続税の納税猶予を利用する場合: 相続税の申告期限までに認定を受け、期限内申告・担保提供等を行う
- 移行後の運営状況報告: 移行完了後6年間、毎年報告する
認定期限については、申請書を提出しただけでは足りません。また、認定後に必ず5年間の猶予があるわけではなく、法人ごとに計画で定めた移行期限を守る必要があります。
持分あり医療法人で確認しておきたい3つの課題
退社などに伴う持分の払戻し
持分あり医療法人では、定款の規定等に基づき、出資者の退社などに伴って持分の払戻しを求められる場合があります。払戻額が当初の出資額を上回ることもあり、資金の確保が法人の経営に影響する可能性があります。まずは、出資者、持分の割合、定款の払戻しに関する規定を確認することが出発点です。
出資者の相続時の税負担
出資持分は、相続税の課税対象となり得る財産です。評価額が大きい場合には、相続人の納税資金の確保が課題になります。なお、相続税を計算するための持分評価額と、実際の払戻額が常に一致するわけではありません。税負担と法人の資金繰りは、分けて確認する必要があります。
持分放棄に伴う贈与税
出資者が持分を放棄すると、他の出資者が受ける経済的利益に贈与税が課される場合があります。また、持分なし医療法人への移行に伴い、法人に贈与税が課される場合もあります。持分放棄の順序や認定を受ける時期で税務上の取扱いが変わるため、放棄の手続きに入る前に確認しておくことが大切です。
認定医療法人制度のメリットと税務上の注意点
医療法人への贈与税が課されない特例
認定移行計画に基づく持分放棄により、計画上の期限までに持分なし医療法人へ移行するなど、所定の要件を満たす場合、移行に伴って法人が受ける経済的利益について、贈与税が課されない特例を利用できます。この特例を受けるには、医療法人側でも必要書類を添付した贈与税の期限内申告が必要です。 認定を受ければ税務署への手続きが不要になるわけではありません。
出資者・相続人の相続税、贈与税の納税猶予・免除
持分を相続した相続人や、他の出資者の持分放棄により経済的利益を受けた出資者は、一定の要件のもとで、対象となる相続税・贈与税の納税猶予を受けられます。さらに、猶予を受けた本人が保有する持分のすべてを計画上の移行期限までに放棄し、所定の届出をすることで、猶予税額の免除を受けられます。持分の払戻しや基金への拠出を伴う場合は、免除される範囲などが異なります。
ここで注意したいのが、認定を受ける時期です。相続した持分の相続税の猶予は、相続後でも申告期限までに認定を受ければ対象となり得ます。一方、出資者の持分放棄に伴って他の出資者に生じる贈与税の猶予は、その放棄時に認定医療法人であることが必要です。納税猶予には期限内申告や担保提供等が必要です。また、この制度によって相続財産全体の税金が免除されるわけではありません。
払戻資金の融資を検討できる
移行期間中に持分の払戻しが生じた場合には、福祉医療機構(WAM)の経営安定化資金を利用できる場合があります。貸付限度額は2億5,000万円、償還期間は10年(据置期間1年以内)です。融資には審査があり、移行計画への利用見込みの記載なども必要です。実際の借入可能額、金利、担保等の条件は個別に確認します。
認定を受けるための主な要件
移行計画について社員総会で議決し、出資者等が十分に理解・検討したうえで、持分の放棄等や期限内の移行が実行可能な計画を作成する必要があります。ここでいう「社員」は従業員ではなく、社員総会の構成員を指します。 加えて、法人の運営について、次のような要件があります。
- 特別の利益を与えないこと: 役員・出資者・親族等や、株式会社等に対し、特別の利益を与える取引等がないか
- 役員報酬等の支給基準: 勤務実態や法人の経理状況等を踏まえ、不当に高額とならない基準を定めているか
- 社会保険診療等の80%要件: 所定の社会保険診療等の収入が、医療保健業務の収入の80%を超えているか
- 自費診療等の価格基準: 自費患者への請求が所定の基準に沿っているか。特定外国人患者請求額には別の基準がある
- 医業収入の150%要件: 所定の本来業務の収入が、当該業務の費用の150%以内か
- 遊休財産額の制限: 所定の方法で計算した遊休財産額が、本来業務の事業費用を超えていないか
- 法令遵守等: 法令違反、帳簿書類の隠蔽・仮装など、公益に反する事実がないか
80%要件の対象は、保険診療収入だけではありません。介護保険給付、所定の健診・予防接種、障害福祉サービス、一定の補助金等も関係します。2025年4月1日以降に開始する会計年度の取扱いを踏まえ、収入の内訳を確認することが必要です。80%ちょうどでは要件を満たしません。
また、遊休財産額は、単に「使っていない不動産の金額」ではありません。資産の区分や所定の計算が必要であり、要件を満たす将来事業のための資金等は、計算上除外できる場合があります。
MS法人との取引や役員から借りている不動産の賃料なども、取引内容と価格の妥当性を確認しておきましょう。
持分なし医療法人への移行手続きと準備期間
主な流れは次のとおりです。
- 現状の確認: 定款、出資者名簿、持分の評価、決算書、関係者との取引を確認します。
- 移行方針の検討: 出資者等の意向を確認し、持分放棄・払戻し等の方針やスケジュールを整理します。
- 移行計画の認定申請: 社員総会で議決した計画と必要書類を厚生労働省へ提出し、認定を受けます。
- 持分の処分と定款変更: 持分放棄等を進め、社員総会の議決を経て、移行に必要な定款変更を都道府県へ申請します。
- 移行完了と報告: 都道府県知事の定款変更認可を受けて移行を完了し、厚生労働省への報告や必要な税務手続きを行います。
税務申告は、相続や持分放棄の時期に応じて、この流れと並行して行う必要があります。 厚生労働省の手引書によると、「申請から認定まで」の平均的な期間は約3か月です。ただし、これは出資者との調整や認定要件を整える準備、定款変更による移行完了までの期間を含むものではありません。
特に、遊休財産額など直近の決算数値で判断される要件を満たさない場合は、翌決算の確定を待つ必要があります。申請書の作成期間だけでなく、決算時期から逆算して準備することが大切です。
移行前に知っておきたいデメリットと注意点
放棄した持分に関する財産上の権利を失う
持分放棄は、出資者にとって財産上の権利を手放す判断です。放棄した持分について、将来払戻しを受けたり、相続人に承継したりすることはできなくなります。また、持分なし医療法人から持分あり医療法人へ戻ることはできません。
移行は義務ではなく、法人による任意の選択です。税負担だけでなく、出資者の意向、後継者への承継方針、法人と個人の資金計画を踏まえて検討する必要があります。
なお、持分と社員の議決権は別です。持分を放棄したことだけで、社員としての議決権が失われるわけではありません。
移行完了後6年間は要件の維持と報告が必要
運営要件は、認定時から移行完了後6年間まで満たす必要があります。移行後も毎年の運営状況報告が必要であり、会計管理や関係者との取引の確認が続きます。
要件を満たさず、改善が見込まれないなどの理由で認定が取り消されると、法人への贈与税が課される場合があります。移行前に納税猶予を受けている場合には、猶予税額や利子税の納付が必要になることもあります。
認定医療法人制度についてよくある質問
Q.相続が起きてからでも利用できますか?
A.持分を相続した場合、相続税の申告期限までに認定を受け、必要な申告等を行えば、納税猶予の対象となり得ます。一般的な相続税の申告期限は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内です。
ただし、認定要件の充足や審査に要する期間があるため、利用できるかは個別の状況によります。10か月以内に持分なし医療法人への移行そのものを完了しなければならない、という意味ではありません。
Q.親族が役員に多い医療法人でも申請できますか?
A.認定医療法人制度には、社会医療法人の認定要件にあるような、いわゆる「役員の親族要件」はありません。ただし、親族への報酬や取引についても、特別の利益供与に当たらないことなどが求められます。
まずは出資持分と認定要件の確認から
認定医療法人制度を検討する際は、定款、出資者名簿、直近3期の決算書を手元にそろえ、持分の評価額と認定要件の充足状況を確認するところから始めましょう。
出資者の判断能力が低下すると、意思確認や持分放棄の手続きが難しくなる場合もあります。出資者本人が意向を伝えられるうちに、移行のメリットと失う権利の両方を共有しておくことが大切です。
ペンデル税理士法人 医業経営支援部では、クリニックの事業承継や閉院に係る実務で培った経験を活かし、出資持分の評価や認定要件の確認、移行に伴う税務についてのご相談を承っています。法人の現状と今後の承継方針に合わせて、検討すべき点を整理いたします。また、医療法人の経営に役立つ最新情報は、医業経営支援部のメールマガジンを通じても継続的にお届けしてまいります。

(参考)
厚生労働省:認定医療法人制度の認定申請について
国税庁:No.4150 医療法人の持分についての相続税の納税猶予の特例