こんにちは!ペンデル税理士法人医業経営支援部の親泊です。
電子カルテやWeb予約システムの導入など、多くのクリニックで業務のデジタル化が進んでいます。しかし、「ツールは入れたものの、業務が楽になった実感が薄い」「費用対効果が見合っていない」といったお悩みも聞こえてきます。
毎年公表される「中小企業白書」は、日本の中小企業の現状と課題をデータで示す貴重な資料です。2026年版白書では、中小企業を取り巻く経営課題の一つとして、「デジタル化・DX」の取組状況やその効果が分析されています。今回はその内容を基に、クリニックがデジタル化の成果を実感し、その先のDX(デジタルトランスフォーメーション)へと進むためのポイントを探ります。
(コラムの内容は公開時の法律等に基づいて作成しています)
中小企業の約6割がデジタルツールを活用する段階へ
白書に掲載された中小企業向けアンケート(※1)では、デジタル化の取組段階を4段階で分類しています。その結果、回答企業の約6割が「紙や口頭で行っていた業務にデジタルツールを取り入れ、業務環境をデジタル化している段階」に該当しました。
一方で、紙や口頭による業務が中心の企業も一定数存在し、企業によって取組段階に差があることも示されています。この結果は医療機関に限定したものではありませんが、デジタルツールの導入が進むクリニック経営を考える上でも参考になります。
(※1 出典:2026年版中小企業白書 )
なぜ効果が出ない?鍵は「業務・職種間の連携」
白書掲載の調査では、部門間連携に取り組んでいる企業の方が、取り組んでいない企業より、デジタル化によって想定した効果を得られたと回答する割合が高い傾向が示されています。
クリニックに置き換えると、重要なのは受付、診療、看護、会計、レセプトなどの業務や職種をつなぐことです。例えば、次のような「情報の分断」が起きていないでしょうか。
- Web予約システムの情報やWeb問診の内容を、スタッフが手作業で電子カルテに転記している。
- 診療実績や予約状況を経営分析に活用しようにも、データ形式がバラバラで集計に手間がかかる。
個別の業務がデジタル化されても、その間を手作業の「転記」や「再入力」でつないでいる限り、クリニック全体の生産性はなかなか向上しません。
医療情報の安全管理を置き去りにしない
業務連携やデータ活用を進める上で、医療機関が特に注意すべきは「医療情報の安全管理」です。医療情報(患者情報)は、法律上「要配慮個人情報」として厳重な保護が求められます。 システム間の連携を検討する際は、「便利になるか」だけでなく、「安全に運用できるか」が極めて重要です。
- アクセス権限の管理:誰が、どの情報に、どこからアクセスできるのかを適切に設定・管理する。
- 委託先の選定:クラウドサービスなどを利用する場合、委託先が厚生労働省の「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」などに準拠した安全対策を講じているかを確認する。
- 緊急時の対応:システム障害、サイバー攻撃、災害などでシステムが利用できなくなった場合の代替手順や、データのバックアップ・復旧計画を定めておく。
利便性の追求が、情報漏洩などの重大なインシデントに繋がらないよう、細心の注意が必要です。
デジタル化を経営改善につなげる手順
では、デジタル化を単なる「ツールの導入」で終わらせず、経営改善につなげるにはどうすればよいでしょうか。白書の内容も踏まえると、次のような手順が考えられます。
- 現状業務の可視化:まず、現在の業務フローを書き出し、どこで情報の「分断」や「重複入力」が発生しているかを特定します。
- 目的の明確化:デジタル化によって「何を実現したいのか」(待ち時間短縮、職員の負担軽減、患者満足度向上など)という目的を、院長・管理者が明確にします。
- 計画的な導入と連携:目的達成のために必要なツールを選定し、「誰が、どのように使うのか」、システム間の連携は可能か、などを事前に検討します。
- 効果測定と見直し:導入後、目的が達成されているかを定期的に評価し、運用の見直しや追加の改善策を検討するPDCAサイクルを回します。
デジタル化を単なる経費削減で終わらせず、患者サービスの向上、職員の負担軽減、迅速な経営判断につなげられるかが、持続可能なクリニック経営の重要なポイントになります。

(参考)
中小企業庁「2026年版中小企業白書―デジタル化・DX」
厚生労働省「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」