こんにちは!ペンデル税理士法人医業経営支援部の親泊です。
円安の進行や将来への備えから、資産ポートフォリオに外貨預金や外貨建て金融商品を加える院長先生が増えています。しかし、その運用に伴う税務リスクを正確に理解されている方は意外と少ないかもしれません。
特に、「外貨を日本円に戻さない限り、為替差益の税金はかからない」という誤解は根強くあります。この論点に対し、2026年6月、最高裁は、外貨で別の外貨や外貨建て有価証券を取得した場合の為替差損益について、重要な判断を示しました。
今回は、この判決の内容と、そこから我々が学ぶべき教訓を解説します。
(コラムの内容は公開時の法律等に基づいて作成しています)
最高裁が示した「外貨による資産取得」の課税関係
この事件では、日本の居住者がスイスの金融機関に資産運用を一任し、その金融機関が、保有する外国通貨で別の外国通貨や外貨建て有価証券を取得していました。 納税者側は、取引後も為替変動リスクが残っているため為替差益は確定・実現していないと主張しました。しかし、最高裁は、支払いに用いた外貨の経済的価値が、別の外貨または有価証券の経済的価値として固定化され、新たな経済的価値が流入したとして、その時点で利益が実現すると判断しました。
したがって、例えば保有する米ドルをユーロへ交換した場合や、保有する米ドルで米ドル建て有価証券を購入した場合には、支払いに用いた米ドルについて円換算による為替差損益を計算する必要があります。円に換金していないことだけを理由に、損益認識を先送りすることはできません。
ただし、外貨の保有中に生じた含み益が直ちに課税されるわけではなく、同一通貨を別口座へ移しただけの場合など、外貨の保有状態に実質的な変化がない取引では、為替差損益を認識しないこともあります。
国際的な情報交換と申告漏れのリスク
「海外の口座だから税務署にはわからないだろう」という考えは、もはや過去のものです。CRS(共通報告基準)に参加する国・地域では、金融機関が非居住者の一定の金融口座情報を税務当局へ報告し、その情報が口座保有者の居住地国へ提供されます。 ただし、CRSによって個々の為替差損益が自動的に計算されるわけではありません。税務当局が把握した口座情報を端緒として、取引明細や資金移動について確認を受ける可能性があります。 申告漏れを指摘された場合、本税に加えて過少申告加算税や無申告加算税、延滞税が生じる可能性があります。事実の隠蔽・仮装が認められた場合には、重加算税の対象となることもあります。
今すぐ確認すべきこと
今回の最高裁判決を受け、外貨建て資産を保有する方がまず取り組むべきことは、過去の取引内容の確認です。
- 対象取引の有無を確認する
まず、過去に次のような取引がなかったかを確認します。
- 保有外貨を別の外貨へ交換した
- 保有外貨で外貨建て有価証券を購入した
- 一任運用口座で通貨交換や有価証券購入が行われた
- 取引明細の取得と円換算
該当する取引がある場合、取引履歴を確認します。年次報告書だけで取引日や価額を確認できない場合は、月次明細なども取り寄せます。為替差損益を計算するには、取引時の円換算額だけでなく、支払いに使った外貨をいつ、いくらで取得したかを確認する必要があります。
為替レートは、原則として取引日のTTM(電信売買相場の仲値)により円換算します。
まとめ:外貨運用では取引履歴と取得価額の管理が重要
今回の最高裁判決は、外貨取引における所得認識の考え方を明確にしたものです。裁判官の補足意見では、為替差損益の課税の在り方について法的手当てを求める指摘もされましたが、だからといって現行法下での申告義務が免除されるわけではありません。 資産のグローバル化が進む現代において、税務の知識は資産防衛の必須スキルです。過去の取引に申告漏れの可能性がある場合は、対象取引と損益額、申告状況を確認し、修正申告が必要かを税理士へ相談してください。

(参考)
最高裁判所 令和5年(行ヒ)第366号 判決(令和8年6月16日)
所得税法第36条第1項(収入金額)
所得税法第57条の3(外貨建取引の換算)
国税庁:CRS(共通報告基準)に基づく自動的情報交換に関する情報