こんにちは!ペンデル税理士法人 医業経営支援部の親泊です。
クリニックでは、診療の延長、終了間際の急な対応、後片付けや記録作成などにより、予定どおりに業務を終えられないことがあります。
医療現場には、患者さまの状況に応じた柔軟な対応が求められます。一方で、スタッフの労働時間や残業代については、労働基準法などのルールに沿って管理する必要があります。
「患者さまの対応が終わるまで残るのは当然」「スタッフも理解してくれている」といった考え方に頼ると、労働時間の把握漏れや未払い賃金、スタッフとの認識のずれにつながる可能性があります。
本コラムでは、クリニックで起こりやすい残業管理上の課題と、実務で取り組みやすい改善策を解説します。
(コラムの内容は公開時の法律等に基づいて作成しています)
クリニックで適切な残業管理が必要な理由
スタッフを雇用している場合、クリニックの規模にかかわらず、始業・終業時刻、休憩時間、時間外労働を適切に把握する必要があります。
時間外労働を行わせるには、原則として36協定の締結・届出が必要です。また、時間外労働の上限は、原則として月45時間、年360時間とされています。臨時的な特別の事情がある場合にも、年720時間以内、時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満などの上限があります。違反した場合は、罰則の対象となる可能性があります。
未払い賃金の問題が長期間に及ぶと、退職後にまとめて請求され、クリニックの資金繰りに影響する可能性もあります。賃金請求権の消滅時効は、2020年4月1日以降に支払期日が到来する賃金について、原則5年としつつ、当分の間は3年とされています。
また、勤務時間や残業代の取扱いが不明確だと、スタッフの不満や職場への不信感につながることがあります。適切な残業管理は、法令遵守だけでなく、採用や定着の面でも重要です。
残業が増える原因を確認する
残業を減らすには、スタッフの意識だけでなく、業務量や院内の指示・運用方法を確認する必要があります。
たとえば、次のような状態がないでしょうか。
- 業務の終了時刻や優先順位が不明確
- 周囲のスタッフが残っているため帰りにくい
- 翌日に回せる業務を当日に行っている
- 終業後の片付けや記録作成が長引いている
- 院長が終業間際に新たな業務を依頼している
- 同じ内容を複数の書類へ転記している
業務終了後の時間が労働時間に当たるかどうかは、院内ルールや本人の認識だけでなく、実際に使用者の指揮命令下にあったかどうかで判断されます。明示または黙示の指示によって業務に従事していた時間は、労働時間として扱う必要があります。着替えや清掃なども、業務上義務付けられている場合は労働時間に当たり得ます。
クリニックで取り組みやすい残業対策
1. 労働時間と休憩時間の実態を確認する
まずは、タイムカードや勤怠システムの記録と、実際の勤務状況が一致しているかを確認します。
- 始業前に準備作業をしていないか
- 終業後に清掃や記録作成をしていないか
- 制服への着替えを業務上義務付けていないか
- 昼休みに電話や来院対応をしていないか
- 休憩中に業務連絡への対応を求めていないか
昼休みに電話番や来客対応をさせている場合、自由に利用できる休憩時間とはいえず、労働時間に当たる可能性があります。その場合は、別途休憩を確保するなど、適切に運用しましょう。
2. 残業の事前申請・承認ルールを整える
残業が必要な場合は、終了予定時刻と業務内容を申請してもらう方法があります。
事前に確認することで、「本日中に必要な業務か」「翌日に回せるか」「他のスタッフに分担できるか」を検討しやすくなります。
ただし、事前承認がないことだけを理由に、実際に行われた労働時間を記録や支払いの対象外にすることはできません。実際に業務を行っていた場合は、その時間を把握し、必要な賃金を支払う必要があります。
3. 業務の削減・標準化・IT化を進める
残業を減らすには、業務時間を短くするだけでなく、業務そのものを見直すことも有効です。
- 手書き書類を電子化する
- 同じ内容の二重入力を減らす
- 現金管理の手順を見直す
- 清掃や備品管理の外部委託を検討する
- 業務マニュアルを整備する
- 診療終了後に行う業務を整理する
自動釣銭機や勤怠管理システムなどを導入する場合は、初期費用や運用負担を確認し、自院にとって効果が見込めるかを検討しましょう。
勤怠管理システムを活用する
労働時間の把握は、使用者の責任です。厚生労働省は、始業・終業時刻を、使用者による現認やタイムカード、ICカード、パソコンの使用時間などの客観的な記録を基礎として確認する方法を示しています。
クリニックでは、受付、看護、清掃、器具洗浄など、パソコンを使わない業務も多くあります。そのため、PCログだけに頼らず、勤怠記録と業務の実態を組み合わせて確認することが大切です。
クラウド型の勤怠管理システムを導入すれば、打刻、残業時間、休憩取得状況、36協定の上限に近づいた場合のアラートなどを管理しやすくなる場合があります。ただし、システムを導入するだけで適切な管理ができるわけではありません。記録と実態が一致しているかを定期的に確認しましょう。
まとめ
クリニックの残業管理は、単なる勤怠集計ではありません。スタッフの労働時間を適切に把握し、必要な賃金を支払いながら、業務量や人員配置を見直すための経営課題です。
まずは、次の点を確認してみましょう。
- 始業・終業時刻と実際の勤務時間が一致しているか
- 休憩時間に電話対応などをさせていないか
- 残業の申請・承認ルールが整っているか
- 事前承認の有無にかかわらず実労働時間を記録しているか
- 36協定の内容と時間外労働の上限を確認しているか
- 業務の削減やIT化を検討しているか
ペンデル税理士法人 医業経営支援部では、医療機関の会計・税務・経営相談に加え、人件費や業務量、院内の運営体制についてもご相談を承っています。
勤怠記録や残業管理、院内ルールの整備についてお悩みの方は、お問い合わせフォームよりご相談ください。

(参考)
厚生労働省:労働時間の適正な把握に関するガイドライン
厚生労働省:時間外労働の上限規制
厚生労働省:労働時間・休憩・休日関係