こんにちは!ペンデル税理士法人医業経営支援部の親泊です。
最近、あらゆる業界で「生産性の向上」が重視されていますが、先生のクリニックでは日々の勤怠管理をどのように行っていますか?
「うちは人数が少ないから、エクセルで十分」「システム代にお金をかけたくない」——そうしたお声をよく耳にします。
確かに、開業初期や少人数のうちは、エクセル管理が最もコストを抑えられる方法に見えるかもしれません。
しかし、その「安さ」の裏で、先生ご自身の貴重な時間がどれだけ使われ、どのような法的リスクが潜んでいるか、一度立ち止まって考えてみる価値があります。 今回は、エクセル管理を「経営判断として許容できる」条件と、それを卒業すべきタイミングについて解説します。
(コラムの内容は公開時の法律等に基づいて作成しています)
法的根拠から見る「客観的な記録」の重要性
2024年4月から「医師の働き方改革」が本格的に施行され、医療機関における労働時間の把握は、これまで以上に適正な対応が求められるようになりました。
厚生労働省のガイドラインでは、労働時間の把握方法として、タイムカード・ICカード・パソコンの使用時間の記録など「客観的な記録」を基礎とすることを原則としています。
ここで注意したいのが、「エクセルによる自己申告」だけに頼る運用です。
一般的なエクセルによる管理では、入力履歴の管理や改ざん防止の仕組みが不十分になりがちです。
過去の裁判例でも、自己申告されたデータと、実際の業務記録(電子カルテの入力時間など)との間に大きな乖離がある場合、記録の客観性が十分でないと判断され、従業員側の主張が認められた事例があります。 「エクセルでつけているから問題ない」という理解だけでは、労働基準監督署の調査や労使間の紛争が生じた際に、十分な説明資料として評価されない可能性があることを、まず認識しておく必要があります。
エクセルで勤怠管理を行う場合の実務と工夫
もっとも、スタッフが数名で、「開業初期のため固定費を最小化したい」というフェーズであれば、エクセル管理を選択することも一つの合理的な経営判断です。
その場合は、以下のポイントを押さえて運用しましょう。
1. 医療現場に即した記載項目の設定
クリニックには、パート勤務、シフト制、中休みなど、特有の勤務パターンがあります。最低限、次の項目を管理できるようにしておきましょう。
- 出退勤時刻(原則1分単位で記録)
- 休憩時間(法定の休憩時間が確保できているか)
- 時間外労働(法定内・法定外の区別)
- 深夜・休日割増の対象となるかのフラグ
2. 関数による自動集計の構築
手計算によるミスを防ぐため、以下のような関数を活用します。
- SUM関数:月間の総労働時間を集計する。
- IF関数/OR関数:「土日祝日」や「22時以降」などの判定を自動化する。
- TEXT関数:日付から曜日を自動で表示する。
ただし、関数が複雑になるほど、設定ミスに気づきにくくなる点には注意が必要です。
エクセル管理に潜む3つの経営リスク
「無料(追加コストがかからない)」という言葉の裏にある、実質的なコストとリスクにも目を向けておきましょう。
① 院長の「機会コスト」という見えにくい損失
たとえば、先生が毎月、スタッフの打刻をエクセルに転記し、数式を確認し、集計するのに2時間を費やしているとします。
院長である先生の時間単価を考えれば、その2時間には相応の価値があるはずです。
月額数千円程度のシステム費用を惜しんだ結果、本来はより付加価値の高い業務に充てられる時間を事務作業に使っている——この点は、経営判断として一度見直す余地があります。
② 人的エラーと修正作業の連鎖
エクセルの数式は、一箇所の不具合が全体の集計に影響するという弱点があります。
「今月の残業代の計算が合いません」とスタッフから指摘され、数式を確認し、過去数か月分までさかのぼって修正する——。
こうした作業にかかる時間や、スタッフからの信頼低下は、数字に表れにくい損失です。
③ 改ざん・不正を招きやすい構造
入力履歴(ログ)が残りにくいエクセルでは、悪意がなくても「昨日は少し遅くまで残ったから」と、実態より多めに入力してしまう余地が生まれます。
客観的な打刻の仕組みがないことは、記録の正確性やスタッフの意識の面でもリスクとなり得ます。
損益分岐点:いつシステムに切り替えるべきか
エクセル管理は、あくまで「過渡期」のツールと位置づけるのが現実的です。
次のようなサインが現れたら、勤怠管理システムへの移行、あるいは集計機能付き打刻機の導入を検討するタイミングといえます。
| 切り替えのサイン | 経営判断のポイント |
| スタッフが10名を超えた | 管理の目が届きにくくなり、入力ミスや記録の誤りのリスクが高まります。 |
| 変形労働時間制を導入した | 変形労働時間制をエクセルだけで正確に管理するのは、実務上かなり難易度が高くなります。 |
| 集計に月2時間以上かかっている | 院長の「経営者としての時間」を費やすコストが、システム費用を上回る可能性があります。 |
「クラウドの導入はまだ早い」という場合は、数万円程度の買い切りで導入できる「集計機能付きタイムレコーダー」も選択肢の一つです。
紙のカードを使いながら、機械が自動で時間を集計してくれるため、エクセル入力の手間を大きく減らすことができます。
まとめ
- エクセル管理は、リスクを理解したうえでの経営判断として行う
客観的な証拠としての機能に限界があることを理解したうえで、少人数のうちは関数を活用して丁寧に運用しましょう。
- 院長の時間を「無料」と考えない
事務作業に追われることは、本来の院長の役割ではありません。
- 適切なタイミングで「時間を買う」決断を
組織の拡大に合わせて管理体制をアップデートしていくことが、結果的にクリニックを守ることにつながります。
勤怠管理は、名札の着用などと同様に、「責任の所在を明確にする」ための重要な経営インフラです。
開業当初はエクセルでも差し支えありませんが、スタッフが増え、組織や人間関係が複雑になる前に、仕組みを整えておくことをおすすめします。
スタッフのこれまでの勤務経験や、職場環境の違いによって、勤怠の付け方一つをとっても認識の違いが生じやすいものです。
「これくらい自分でやればいい」と抱え込み、問題がこじれてしまう前に、専門家に相談するという選択肢もご検討ください。
ペンデル税理士法人 医業経営支援部では、クリニックの開業支援から、無理・無駄のない人事労務管理の構築まで、幅広くサポートしています。
先生が診療と経営判断に集中できる環境づくりを、一緒に進めていければ幸いです。お気軽にご相談ください。

(参考)
厚生労働省:労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン
厚生労働省:未払賃金が請求できる期間の延長について(pdf)