こんにちは!ペンデル税理士法人医業経営支援部の親泊です。
クリニックの閉院は、開業と同じくらい、場合によってはそれ以上に、多くの手続きと配慮が必要となる一大プロジェクトです。
長年地域医療に貢献されてきた先生方が、ご自身のライフステージの変化や健康上の理由、後継者の不在などを背景に、閉院を検討されるケースも増えています。
なお、診療所の閉院(廃止)にあたっては、「個人で開設した診療所」か「医療法人が開設した診療所」かによって、必要な手続きが大きく異なります。医療法人の場合は、診療所の廃止に加えて、解散・清算など法人特有の手続きが生じます。本コラムでは、このうち「個人で開設した診療所の廃止(閉院)」を前提に解説します。
いざ閉院を考え始めても、「何から始めればよいのか」「誰に、いつ伝えればよいのか」「カルテや医療機器はどうすればよいのか」と、疑問や不安が次々に出てくるのではないでしょうか。
閉院の手続きは、賃貸借契約の解約、スタッフへの説明、患者さんへの対応、行政機関への届出、カルテの保管まで、多岐にわたります。
計画的に進めないと、思わぬトラブルや、余計なコストが生じてしまう可能性もあります。 本コラムでは、一般的な実務の流れを踏まえ、個人開設のクリニックをスムーズに閉院するための具体的なスケジュールと、押さえておきたい重要なポイントをわかりやすく解説します。
(コラムの内容は公開時の法律等に基づいて作成しています)
閉院準備は半年前から。最初のステップとは?
閉院を決断したら、まずはスケジュールを逆算して計画を立てることが重要です。一般的には、閉院の少なくとも6か月前から動き始めることをおすすめします。
賃貸借契約の確認と解約予告
テナントで開業している場合、最初のステップは「賃貸借契約書の確認」です。
解約の予告期間が「解約希望日の6か月前」などと定められているケースが多く、この期間を見落とすと、閉院後も家賃を支払い続けなければならない事態になりかねません。
また、退去時の「原状回復」の範囲についても必ず確認しましょう。契約内容によって、主に次のようなパターンがあります。
- スケルトン戻し:内装をすべて解体し、コンクリートがむき出しの状態に戻す。
- 事務所仕様などへの復旧:壁紙を張り替え、エアコン等を残した状態にする。
- 居抜き:内装や設備をそのまま残し、次の入居者へ引き継ぐ(オーナーの承諾が必要)。
契約内容によって解体費用や工期が大きく変わるため、早めにオーナーや管理会社と協議し、方針を決めておくことが大切です。
スケジュールの全体像
以下は、一般的な閉院スケジュールの目安です。クリニックの規模や契約内容によって前後しますので、あくまで参考としてご覧ください。
- 6か月前:賃貸借契約の確認、オーナーへの解約予告
- 4〜3か月前:スタッフへの告知、患者さんへの案内準備、医師会への連絡、患者さんの引継ぎ先の検討
- 3か月前:医療機器の処分方法の検討、リース等の解約打診、解体業者の選定、取引業者(検査会社等)への解約連絡
- 1か月前:公共サービス(電気・ガス等)の解約準備
- 閉院時:各種行政機関への届出、カルテ・書類の移動、機器の撤去
- 閉院後〜1か月:原状回復工事、テナントの返却
デリケートな「伝える」タイミング
閉院にあたって最も神経を使うのが、「誰に、いつ、どのように伝えるか」です。
順番やタイミングを誤ると、スタッフの早期離職や患者さんの混乱を招きかねません。
スタッフへの告知(4〜3か月前)
スタッフへの告知は、慎重に行う必要があります。
早すぎると、不安から早期退職につながり、閉院までの診療体制を維持できなくなるおそれがあります。逆に遅すぎると、次の就職活動のための時間が確保できず、不満につながる可能性があります。
一般的には、閉院の4〜3か月前に伝えるのが一つの目安とされています。進め方のポイントは次のとおりです。
- まずはリーダー格のスタッフに個別に伝える。
- その後、全体ミーティング等で他のスタッフに一斉に伝える。
- 患者さんへの告知が完了するまでは、情報管理に十分配慮してもらうよう依頼する。
- 閉院後の残務整理(レセプト作業、片付けなど)に必要な期間も考慮し、最終勤務日を明確にする。
- 最後まで協力してもらうために、退職金や特別手当の支給を検討することも一つの方法です。
※スタッフの処遇(解雇予告、退職金、有給休暇の消化など)は、労働基準法等のルールに沿って進める必要があります。トラブルを防ぐため、早めに労務の専門家に相談しておくと安心です。
医師会・学会への連絡(4〜3か月前)
患者さんへの告知は、院内掲示、ホームページでの案内、継続的な治療が必要な患者さんへのDM(ダイレクトメール)などを通じて行います。
印刷業者の手配や文面の作成には時間がかかるため、告知の1〜2か月前から準備を進めておきましょう。
同時に、近隣の診療所や連携病院へあいさつを行い、患者さんの引継ぎ先(紹介先)を確保しておくことが、患者さんに安心していただくうえで非常に重要です。
患者さんへの告知(3か月前)
患者さんへの告知は、院内掲示、ホームページでの案内、継続的な治療が必要な患者さんへのDM(ダイレクトメール)などを通じて行います。
印刷業者の手配や文面の作成には時間がかかるため、告知の1〜2か月前から準備を進めておきましょう。
同時に、近隣の診療所や連携病院へあいさつを行い、患者さんの引継ぎ先(紹介先)を確保しておくことが、患者さんに安心していただくうえで非常に重要です。
モノの処分と各種解約手続き
閉院日が近づくにつれ、クリニック内にある「モノ」の処分と、「契約」の解約手続きが本格化します。
医療機器・什器の処分
医療機器は、自己所有かリースかによって対応が異なります。
- リース品:リース会社に連絡し、解約・清算・返却の手続きを確認します。残債がある場合は、一括での精算を求められることが一般的です。
- 自己所有品:売却・譲渡・廃棄のいずれかを検討します。専門の買取業者に査定を依頼したり、産業廃棄物処理業者に相談したりします。
取引業者・公共サービスの解約
医薬品卸業者には、未開封の医薬品等の返品方法や、最終の支払い時期を確認します。
そのほかにも、以下のような取引先への解約手続きが必要です。
- 検査会社(血液検査など)
- レセコン・電子カルテの保守会社
- 予約システム会社
- 広告(駅看板、電柱広告など)
- ホームページ管理会社
- 警備会社
- 医療ガス(酸素など)
また、電気・ガス・水道・電話・インターネットなどの公共サービスについても、終了日を確定させ、最終の請求書の送付先(ご自宅など)を指定しておきます。郵便物の転送手続きも忘れないようにしましょう。
最も頭を悩ませる「カルテの保管」問題
閉院に伴う業務の中で、多くの先生方が直面する課題が「カルテの保管」です。閉院した後も、保存義務はなくなりません。
医師法では、カルテの法定保存期間は「診療が完結した日から5年間」とされています。ここで注意したいのは、診療日からではなく、その患者さんの一連の診療が「完結した日」から起算する点です。継続して通院している患者のカルテ等は、すべて保存しなければなりません。
また、カルテは5年間、レントゲンフィルムは3年間の保存義務があり、これは閉院した場合も同様です。なお、レントゲンフィルムの保存期間は、医療法で2年、療養担当規則で3年、医師法が定める診療録の保存期間として5年と複数の法律で定められており、実務上は最も長い5年を基準に保存するのが安全とされています。
なお、個人開設の診療所を廃止した場合、これらのカルテの保存義務は、開設者であった院長ご自身(廃止後の管理者)が引き続き負うことになります。閉院後の保管体制まで含めて、あらかじめ検討しておく必要があります。
「電子カルテだから大丈夫」と思っていても、過去の紙カルテが大量に棚に残っているケースは少なくありません。
保管場所はどうする?
閉院後、これらのカルテをご自宅の一室に保管される先生もいらっしゃいますが、スペースの都合で難しい場合も多いでしょう。そうした場合、主に次のような選択肢があります。
- レンタルコンテナ(トランクルーム)の利用:費用はかかりますが、ご自身で管理できるスペースを確保できます。
- 専門業者による「保管・溶解廃棄サービス」の利用:セキュリティが確保された外部倉庫で段ボールごと保管し、法定保存期間の経過後に、未開封のまま溶解廃棄処理を行い、証明書を発行してくれるサービスです。保管場所の悩みと、将来の廃棄の手間をまとめて解消できます。
※カルテには患者さんの個人情報が含まれます。保管・廃棄のいずれの場合も、個人情報保護の観点から、適切な管理ができる方法を選ぶことが重要です。
行政への届出は原則「閉院後」
閉院日を迎えたら、各種行政機関へ廃止の届出を行います。個人で開設した診療所の場合の主な提出先は以下のとおりです。
- 保健所(診療所廃止届)
- 地方厚生局(保険医療機関廃止届)
- 税務署(個人事業の廃業等届出書など)※所得税の準確定申告や、届け出ている場合は青色申告の取りやめ届出なども必要に応じて検討します。
- 年金事務所・ハローワーク(健康保険・厚生年金、雇用保険の適用事業所廃止に関する届出など)
これらの手続きには、それぞれ提出期限が定められています(例:保健所への廃止届は閉院後10日以内など)。提出先によって期限や必要書類が異なるため、事前に各窓口へ確認し、速やかに手続きを行いましょう。
※医療法人が開設した診療所を閉院する場合は、上記に加えて、都道府県への解散認可申請や清算手続き、法人の解散・清算に伴う登記、法人税の申告など、個人開設とは別の手続きが必要になります。医療法人の閉院をご検討の場合は、別途ご相談ください。
ペンデル税理士法人がトータルサポートいたします
クリニックの閉院は、想像以上に煩雑で、心身ともにエネルギーを要する作業です。通常の診療を続けながら、これらすべての手続きを先生お一人で進めるのは、大きな負担となりがちです。
ペンデル税理士法人では、税務・財務のサポートはもちろん、閉院に関する各種手続きのご支援や、提携業者(解体工事、機器処分、カルテの外部保管サービス等)のご紹介など、閉院に向けたトータルサポートを行っています。
「そろそろ閉院を考えているが、何から手をつければよいか分からない」「カルテの保管場所や機器の処分に困っている」といったお悩みがありましたら、お早めにご相談ください。先生が安心して次のステージへ進めるよう、私たちが伴走いたします。
