こんにちは!ペンデル税理士法人医業経営支援部の親泊です。
医療業界においても、事業承継やグループ化を目的としたM&A(買収・合併)が活発化しています。M&Aを検討する上で避けては通れないのが「のれん」という会計・税務上の概念です。 「のれん」とは一体何なのか、そして会計と税務でその取扱いがどう異なるのか。基本的なポイントを解説します。
(コラムの内容は公開時の法律等に基づいて作成しています)

「のれん」とは何か?
「のれん」とは、M&Aにおいて、買収された企業の純資産額(資産から負債を引いた額)を上回って支払った差額のことを指します。 この差額は、買収された企業が持つブランド力、技術力、顧客網、従業員のスキルといった、貸借対照表には現れない「超過収益力」の対価と考えられます。
計算式: のれん = 買収価額 – 買収対象の純資産額(簿価や評価方法により算定)
【会計】のれんの処理:規則的な償却が原則
会計上は、のれんの効果が及ぶと見積もられる期間(最大20年以内)にわたって、定額法などの合理的な方法で規則的に費用計上(償却)していきます。
- 計上: 貸借対照表の「資産」の部に計上。
- 償却: 償却費は損益計算書の「販売費及び一般管理費」として計上され、営業利益を圧迫する要因となります。
(参考)国際会計基準(IFRS)との違い IFRSでは、のれんを規則的に償却せず、毎期その価値が毀損していないかをテスト(減損テスト)し、価値が大きく下落した場合にのみ損失(減損損失)を計上します。
【税務】のれん(資産調整勘定)の処理:5年間の強制償却
税務上は法人税法上の無形固定資産として扱われ、原則5年間で均等償却されます。
- 償却期間: 会計上の償却期間に関わらず、一律5年間(60か月)で均等に償却します。
- 損金算入: 算定された償却額は、各事業年度で損金の額に算入されます。
- 強制適用: 会計上で費用計上(損金経理)しているか否かに関わらず、税務上は5年間で償却し、法人税申告において損金算入します。
会計と税務の差異から生じる「申告調整」
このように、のれんの償却期間が会計(最長20年)と税務(5年)で異なるため、その差額を法人税の申告時に調整(申告調整)する必要があります。
- 当初5年間: 会計上の償却額との差異は法人税申告書で調整(加算・減算)されます
- 6年目以降: 税務上の償却額 = 0 < 会計上の償却額 → 差額を申告書で加算(所得)
まとめ
「のれん」は、M&Aの成否を財務的に左右する重要な要素です。会計上は長期にわたる費用負担、税務上は短期的な節税効果として現れます。 医療機関のM&Aを検討する際は、買収価額の妥当性評価はもちろんのこと、のれんの発生がその後の経営に与える会計・税務上のインパクトを正確にシミュレーションすることが不可欠です。専門家にご相談のうえ、慎重な計画を進めることをお勧めします。
【参考】
企業結合に関する会計基準