こんにちは!ペンデル税理士法人医業経営支援部の親泊です。
クリニックの事務長や部長といった役職者について、
「管理職だから残業代は不要」と考えがちです。
しかし、時間外・休日労働の規制が除外されるのは、
労働基準法上の「管理監督者」に該当する場合に限られます。
そして実際には、労働基準法上の「管理監督者」と、社内の役職は、必ずしも一致しません。
2025年7月の東京高等裁判所の判決では、休職後の復職命令をめぐる争いの中で、
「管理監督者」に該当するかどうかが主要な争点となりました。
今回はこの事例をもとに、医療法人が注意すべき労務管理のポイントを解説します。
(コラムの内容は公開時の法律等に基づいて作成しています)
何が争われたのか?(東京高裁 2025年7月2日判決)
経緯
医薬品関連企業の執行役員がメンタル不調で休職後、
会社から最低賃金での「試し出勤」を命じられた。
社員はこれを拒否し、休職期間満了で退職。
その後、会社の対応は不法行為であり、自身は管理監督者ではないとして
未払いの残業代などを求めて提訴した。
一審(地裁)
会社の対応に問題はなく、
執行役員は高位・高給で裁量も広かったとして「管理監督者」に該当すると判断。
社員側の請求を棄却。
二審(高裁)
高裁は、試し出勤命令そのものについては不当とはいえないと判断しましたが、
「管理監督者」には当たらないとして、
会社に未払残業代と付加金(罰金)約200万円の支払いを命じた。
なぜ高裁は「管理監督者ではない」と判断したのか?
高裁が最も重視したのは、
この執行役員が部下の労務管理(採用、解雇、人事考課、労働時間の管理など)に関する
指揮監督の役割や権限を持っていなかったという点です。
たとえ役職名が「執行役員」で、給与が高く、自身の出退勤に裁量があったとしても、
管理監督者に該当するかどうかは、経営者と一体的な立場にあるか、
労務管理上の権限や責任、待遇がそれにふさわしいかといった要素を総合的に判断します。
クリニック経営への示唆
この判例は、クリニックにおける事務長や看護部長などの処遇を考える上で非常に重要です。
- 役職名だけで判断しない
「事務長」という肩書だけで自動的に管理監督者と認められるわけではありません。
- 権限の実態が重要
採用や部下の評価、シフト管理など、
労務に関する具体的な権限と責任を与えているかが問われます。
- 経営への参画
経営会議に参加し、経営方針の決定に関与しているかどうかも重要な判断要素です。
まとめ
管理監督者に該当するかの判断は、役職名や給与だけではなく、
実際の職務内容、権限、責任、待遇を総合的にみて行われます。
「管理職=残業代不要」と思い込むことは大きなリスクです。
事務長や部門責任者の業務実態を定期的に点検し、
就業規則や役職規定の整備を検討してみてはいかがでしょうか。
ペンデル税理士法人は、税務顧問を通じ、顧問先の皆さまの経営を長期的に支援しています。