東京都内にて、長年地域に愛されてきた小児科医院。
その歴史と想いを引き継ぎ、新たな体制で「〇〇こどもクリニック」として再スタートを切ったA院長と共同経営者(副院長)のB医師。
第三者事業承継(M&A)という複雑なプロセスを経て、お二人がどのようにして理想の地域医療と安定したクリニック経営を両立させたのか。
勤務医時代からの葛藤、開業準備の生々しい壁、そして共に歩むパートナーの存在について、A院長に率直な胸の内を語っていただきました。

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小児科医を志したきっかけ等を教えていただけますか
私が小児科医を志した原点は、子どもたちが持つ圧倒的な生命力と、未来へ向かって成長していく姿に深く心を動かされたことにあります。
大学病院や総合病院での勤務医時代は、重症感染症や複雑な基礎疾患を抱える子どもたちと昼夜を問わず向き合う、非常に過酷でありながらも充実した日々でした。そこでは最先端の医療知識と、一瞬の判断ミスが命に関わるという極限のプレッシャーの中で技術を磨き続けてきました。
しかし、急性期医療の最前線で経験を重ねるにつれ、私の中で一つのジレンマが大きくなっていきました。それは、病気が治癒すれば患者さんは退院し、その後の健やかな成長を継続して見守ることが難しいという総合病院特有のシステムに対するもどかしさです。
退院後の日常生活の中で、ご家族がどのような不安を抱え、子どもたちがどのように地域で育っていくのか。病気という「点」だけを診るのではなく、その子の人生という「線」に寄り添い、予防医療も含めた包括的なサポートを提供したいという思いが、日増しに強くなっていったのです。
地域医療へシフトした理由や、開業の動機などをお聞かせいただけますか
地域医療へのシフトを明確に意識し始めたのは、当院の前身である小児科医院で診療のお手伝いをさせていただくようになったことが直接の契機です。長年地域医療を牽引されてきた先生方がご高齢となられ、第一線を退かれる時期が近づく中で、このままでは長年地域を支えてきた医療の灯が消えてしまうという強い危機感を抱きました。待合室にあふれる子どもたちと、不安そうな表情で来院される親御さんたちの姿を見たとき、誰かがこの場所を守らなければならないと強く決意したのです。
さらに、前医院が長年取り組んできた「無料低額診療事業」の精神と実践を、決して絶やしてはならないという使命感もありました。経済的に支援を必要とする家庭のこどもたちにも、等しく質の高い医療を届ける。この社会的意義の大きい事業を継承するためにも、私が院長として経営の舵取りを引き受ける必要がありました。
開業にあたり、私は共に働くB医師と深く議論を重ね、私たちが実現すべき医療の柱を三つ定めました。
一つ目は、地域の基盤となる「一般診療と予防接種」の徹底です。
二つ目は、勤務医時代の経験を活かした高度な「感染症診療」の提供。
そして三つ目は、親御さんの育児の悩みにじっくりと耳を傾ける「相談系診療」の充実です。
私とB医師で午前・午後、あるいは曜日ごとに役割を分担し、時には二人体制で診療にあたることで、医師一人の疲弊を防ぎながら、地域が求める幅広い小児科医療を網羅的に提供する。この盤石な体制こそが、私たちが目指した次世代のクリニックの形でした。
見出し見物件選びや資金調達、経営実務など、開業準備の壁はありましたか
医療への情熱だけで乗り切れるほど、開業の現実は甘くありませんでした。特に今回は単なる新規開業ではなく、既存医院の「事業承継」という複雑な形態をとったため、経営実務において、幾重もの壁が立ちはだかりました。
まず直面したのは、不動産の賃貸借契約を含む各種契約のすり合わせです。建物の保守区分や原状回復の範囲など、双方の認識を丁寧にすり合わせるべき複雑な契約条件の調整に直面しました。これらは将来の経営に直結する重要な要素であるにもかかわらず、医師としての専門知識が及ばない領域であり、対応に苦慮しました。
さらに、私とB医師が対等な立場で共同経営を行うための「器」選びも難航しました。個人事業主として始めるのか、一般社団法人を設立するのか。多額の初期投資を伴う共同資金をどのように管理し、利益をどう分配するのか。電話回線の名義変更からリース機器の引き継ぎに至るまで、不慣れな事務作業の波に飲み込まれ、診療の合間を縫っての対応に心身ともに限界を感じる日々でした。
正直に申し上げれば、資金繰りと複雑な契約関係のプレッシャーに押しつぶされそうになり、開業という決断自体を後悔しそうになった夜もありました。
なぜペンデル税理士法人を選んだのでしょうか
暗闇の中で手探りをしていた私たちがペンデル税理士法人に出会ったきっかけは、私のアルバイト先の先輩医師からの紹介でした。事業承継の複雑な手続きに直面し、第三者の専門的な知見が必要だと痛感していた時、「医療法務に精通したプロフェッショナルがいるから、一度客観的な視点を入れてもらった方がいい」と助言を受け、実情を打ち明けたのが始まりです。
一般的な税理士であれば、目先の節税メリットや数字の羅列をアピールしてくるのかもしれません。しかし、ペンデル税理士法人のアプローチは全く異なりました。私たちが持ち込んだ不動産の賃貸借契約書を一読するなり、医療経営特有の視点から将来的なリスクを洗い出し、貸主側との円滑な合意形成に向けた具体的な交渉の道筋を提示してくれました。
また、共同経営における出資比率や利益分配のルール決めに関しても、将来的な感情のもつれや税務上のリスクを先回りして言語化し、客観的な覚書に落とし込んでくれたのです。物件の契約から資金調達の枠組みづくり、行政への開設届のスケジュール管理、旧医院からのインフラ引き継ぎに至るまで、その支援はまさにワンストップでした。
経営の不安をすべてテーブルの上に広げ、一つひとつ論理的に解決していく彼らの誠実な姿勢があったからこそ、私は安心して「医師としての診療行為と事業構想」に再び没頭することができたのです。
最も苦労するのは「採用・人事労務」ともいわれますが、ペンデルの社労士連携はどう機能しましたか
開業にあたり最も繊細な舵取りを要求されたのが、前医院から引き継ぐベテランスタッフたちの雇用問題でした。長年クリニックを支えてくれた彼女たちの貢献には深く感謝しつつも、新体制として現在の法令に即し、双方が安心して働ける労務環境を構築し直す必要があったからです。特に大きな課題となったのが、スタッフの多くが希望する「百三十万円の壁」という扶養内での勤務制限と、クリニックが求める労働力の確保という相反するニーズの調整でした。
ここでも、ペンデルグループ内のペンデル社会保険労務士法人とのシームレスな連携が極めて有効に機能しました。単に労働時間を削って調整するのではなく、最低賃金の上昇を見据えた毎年のシフト上限の見直しや、長年の慣習で曖昧になっていた労働条件の可視化など、透明性の高い労務管理の仕組みを構築していただきました。
さらに、有給休暇の管理ルールや就業規則のアップデート、法定要件を満たす雇用契約書の再締結など、将来的な労使間のすれ違いを未然に防ぐ手続きを迅速に進めてくれました。明確なルールに基づく組織づくりを行ったことで、スタッフの間に納得感と安心感が生まれたのか、スタッフが誰もやめることなく、強固なチームビルディングが実現しています。
開業後の月次、DX支援を通じた現在の経営状況について教えてください
開業という最大の山場を越えた現在、クリニックの経営は安定して推移しています。その基盤となっているのが、毎月実施される精緻な業績分析、いわゆる月次決算の存在です。紙ベースのアナログな経理処理からデータ共有を基本とする仕組みへ移行し、毎月の打合せで収支の現在地を正確に把握できるため、共同経営者であるB医師とも、常に透明性の高い状態で経営状態を共有できています。
また、スタッフの業務負担を軽減するためのDX(デジタルトランスフォーメーション)も着実に進行しています。クラウド型の電子カルテの導入や、スマートな予約システムの選定においても、ランニングコストと実務のバランスを見極めた客観的な助言をいただき、現場の混乱を最小限に抑えることができました。
今後は、現在の安定したキャッシュフローを基盤として、近々での医療法人化など、さらに一歩先の持続可能な経営体制に向けた青写真も、彼らと共に描き始めているところです。
後輩医師へのアドバイスや、今後のクリニックの展望・目標を教えてください
これから開業を志す後輩の医師たちに強く伝えたいのは、理想の医療を追求し、社会に貢献するためには「医療機関として適正な利益を生み出さなければならない」という事実です。
当院が引き継いだ「無料低額診療事業」のような社会的意義のある活動を継続するためにも、そして何より、現場の最前線で長年クリニックを支え続けてくれている優秀なスタッフたちの雇用を守り続けるためにも、強固な財務基盤は不可欠です。
必要な医療設備を更新し、経済的に苦しい患者さんを支援し、スタッフが安心して働ける環境を提供する。その理想を実現するための手段としての「適正な利益」を確保することは、経営者の重要な責務です。患者さんにとっての最善、スタッフにとっての働きがい、そして院長自身を含む経営陣の安定。この三方のバランスを追求し続けることこそが、クリニック経営の本質だと私は考えています。
そのためには、自分の医療理念に共鳴し、時には耳の痛い客観的な事実を提示してくれるプロフェッショナルな伴走者を、開業前の早い段階で見つけることが極めて重要です。数字の計算だけを請け負う業者ではなく、経営のリアルなリスクに寄り添い、組織の成長を支えてくれるパートナーの存在は、何物にも代えがたい財産となります。
私たち「〇〇こどもクリニック」は、これからも地域の子どもたちの成長を最前線で見守りながら、関わるすべての人々が幸せになれるクリニックを目指して、一歩ずつ着実に歩みを進めていきます。
【クリニック基本情報】
- 名称: 〇〇こどもクリニック(※仮名)
- 所在地: 東京都内
- 診療科目: 小児科
- 院長: A院長
- 共同経営医師(副院長): B医師
- 設立形態: 個人開設(事業承継後、近々での医療法人化を予定)